【映画を聴く】『ヤング・アダルト・ニューヨーク』前編
『クレイマー、クレイマー』のあの曲も登場
ノア・バームバック監督・脚本・製作の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』は、映画の前半と後半でまったく違った表情を見せる。前半はNY・ブルックリンで生活する世代の異なる2組のカップルのライフスタイルを細かく描き、ポップカルチャー好きのツボを刺激しまくるミニシアター系。後半は前半に何気なく敷かれていた伏線をひとつひとつを拾い上げながら、2組のカップルの関係性をガラッと変えてしまうサスペンス路線。それでいて最後にはロマンティックでほのかな希望が漂うラブストーリーを見終えた時のような清々しさが味わえるという、なんとも贅沢なハイブリッド性を持つ作品に仕上がっている。音楽も聴きどころが多く、『クレイマー、クレイマー』の印象があまりにも強い「ヴィヴァルディ:マンドリン協奏曲ハ長調RV.425第1楽章アレグロ」を大胆に使うセンスなどが新鮮だ。
40代のカップル、ジョッシュ&コーネリアにはベン・スティラーとナオミ・ワッツ、20代のカップル、ジェイミー&ダービーにはアダム・ドライバーとアマンダ・サイフリッドがそれぞれキャスティングされている。もう8年も新作を発表していないドキュメンタリー映画監督のジョッシュと有名監督を父に持つ映画プロデューサーのコーネリアは、自分たちにはない生き方を実践するジェイミー&ダービーに強く惹かれ、交流を深める。
フェイスブックやツイッター、各種ネット配信などに必死にしがみつき、かえって自由を失ってしまっているジョッシュ&コーネリアに対し、SNSとは距離を置いてアナログレコードやVHSテープでアートに親しみながらタイプライターで原稿を書く映画監督志望のジェイミーと、自宅でアイスクリームを手作りするダービー。アメリカではジョッシュ&コーネリアは“ジェネレーションX”、ジェイミー&ダービーは“ジェネレーションZ”に属する。後者は子どもの頃からインターネットを当たり前のように使っていた世代で、ジェイミー&ダービーのライフスタイルはその反動から確立されたものに違いないが、そういった“異世代間の捻れ現象”は本作の中だけで起こっているわけではない。世界中にジョッシュ&コーネリアのように最先端ツールへの依存度が高い中年カップルはいるし、古いものに新しさを感じるジェイミー&ダービーのような若いカップルもいる。その意味で本作の設定は、ここ日本でも十分にリアリティの感じられるものだ。
キャスト的にもっとも注目されるのは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のカイロ・レンで大ブレイクしたアダム・ドライバーだろう。実際この物語の魅力は、彼の演じるジェイミーのつかみどころのない人物造形に依るところが多い。いいヤツなのか嫌なヤツなのか正体を明かさないまま、ジェイミーは見る者の懐に飛び込んでくる。
ジェイミーのレコード棚にキンクスのLP『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦』を発見して「趣味が同じだ」と喜ぶジョッシュ、フェイスブックを双方向のコミュニケーションではなく、新聞の告知欄のように使うジェイミー。世代を超えた両者の交感をバームバック監督は徹底してニュートラルに描き、しかもその視点は一貫して半径数メートル以内の身近なところに置かれている。“新世代のウディ・アレン”と評されることの多いバームバック監督の資質は、そんなところによく表れている。(後編「“カイロ・レン”のヒップスター然とした佇まいが印象的」に続く…)
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