(…前編「『クレイマー、クレイマー』のあの曲も登場」より続く)
【映画を聴く】『ヤング・アダルト・ニューヨーク』後編
“カイロ・レン”のヒップスター然とした佇まいが印象的
“新世代のウディ・アレン”だけあって、ノア・バームバック監督の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』はストーリーテリングだけでなく、音楽の使い方にもアレン的な匂いを感じさせる。ただし、音楽の好みが完全に固まっていて、使う曲がニューオーリンズ・ジャズやガーシュウィンに偏っているアレン監督に対し、バームバック監督のセンスはよりDJや編集者に近く、雑食性が高い。
実際に本作の音楽を取りまとめているのは、LCDサウンドシステムのリーダーとして知られるジェームズ・マーフィー。バームバック監督作品では『ベン・スティーラー 人生は最悪だ!』でオリジナル・スコアを担当していたが、本作ではバームバック監督の思い描く作品の世界観に沿ったMIXテープを編むような感覚で制作にあたっている。
前編でも触れたように、「ヴィヴァルディ:マンドリン協奏曲ハ長調RV.425第1楽章アレグロ」を『クレイマー、クレイマー』とは違った形で使ってみせるほか、サイケデリック・ファーズやライオネル・リッチー、ヴァンゲリス、フォリナー、ビリー・オーシャン、それにポール・マッカートニーやデヴィッド・ボウイらの時代も曲調もバラバラの楽曲を自在に配置する手腕はさすがだ。
ナオミ・ワッツ演じるコーネリアが、ア・トライブ・コールド・クエストのラップに合わせてヒップホップ・ダンスのレッスンを受けたり、アマンダ・サイフリッド演じるダービーがカントリー歌手のクリス・クリストファーソンのLPをヘッドフォンで聴いていたり、それぞれの置かれた状況やキャラクター設定に合わせた小道具としても音楽を大いに活用している。ビースティ・ボーイズのアダム・ホロヴィッツが子育てに奮闘するパパ役で出てきたりするところも気が利いている。
しかし、なんだかんだ言って本作を見終えた後に一番記憶に残るのは、アダム・ドライバーのヒップスター然とした佇まいだったりする。90年代のボビー・ギレスピー(プライマル・スクリーム)を思わせる彼の特異な存在感なくして本作が成立したとは考えにくく、今後は『スター・ウォーズ』はもとより音楽映画などでも重用されるに違いない。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』は7月22日より公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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