後編/なぜ子どもに弱さを見せられないのか? 母の死の秘密を乗り越える男の姿に学ぶ
【ついついママ目線】『ミモザの島に消えた母』後編
ありのままの自分を見せることで子どもとの距離が近づいていく
『ミモザの島に消えた母』で主人公・アントワーヌは、過去を封印して再婚した父親がタブーとしてきた母の死の謎を追求していく。アントワーヌは今まではまだ子どもが小さいからという口実で先延ばしにして逃げていたが、母の死に関して自分がこだわりを持っていたという事実を娘のマルゴに打ち明ける。これは小さくて大きな一歩だ。お手本にならなくてはいけないだとか、プライドが邪魔をするだとか、親が弱い自分を見せるのはなかなか抵抗があることだ。
でも、ある程度子どもが大きくなれば、そんな親の姿も受け入れられるようになるだろうし、人に弱い部分を見せるのは悪いことじゃない、とむしろお手本になるだろう。弱い部分をさらけ出せる強さを、きっと子どもも感じ取ってくれるはずだ。
そして、何より親の“立派な親”としてだけじゃなく、親も子どもと変わらないひとりの人間としての姿を見せることで、子どもとの心理的な距離感はぐっと近づくだろう。アントワーヌがトラウマを打ち明けたことによって、娘のマルゴも心開いていく。マルゴもまた、父親に言えないでいた秘密を抱えており、それを父親に告げようかと思い悩み始めるのだ。父親がありのままの気持ちを見せることによって、マルゴの心が和らいでいくのが手に取るように伝わり、とてもいい表情をする。父と娘の関係も良くなり、娘自身も悩みから解放されようとし、相乗効果でポジティブな流れができていく場面は見ている方も嬉しくなった。
アントワーヌの母の隠された真実はドラマとしてはよくあるパターンで衝撃的というほどではないけれども、自分自身のこととして置き換えて考えると複雑な心境になる。動揺するであろう真相解明に、アントワーヌはマルゴを連れて立ち向かい、母の死にポジティブな希望も見出していく。
反対に、嘘をついてまで真実を隠そうとするアントワーヌの父親は、自分をさらけ出す勇気がなく、アントワーヌを成長させようという気持ちもないようで情けなく感じる。しかし、そんな父親と対立して荒れるアントワーヌを慰めるマルゴに、ひとつの理想的な父娘の姿を見た気がした。
子どもの前だとどうしても格好をつけたり、威厳を保っていたいもの。でも、薄っぺらいプライドは子どもに見破られるものだし、その方が格好悪くてバカにされてしまうだろう。逆の立場になって考えるとよくわかる。肩肘張らずに弱い部分を含めてありのままの自分を子どもに見せること、それは子どもにとっては親が自分を信頼してくれたと感じて嬉しいことで、親子の絆を深める近道かもしれない。子どもがある程度成長すると、親子でも同等の人として距離を近づけていく方法もときには必要なんじゃないだろうか。(文:入江奈々/ライター)
『ミモザの島に消えた母』は7月23日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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