【どこまでもダメな人】「もうしません」と言いつつ反省しない男たち~『ハングオーバー』シリーズ~
#エド・ヘルムズ#ザック・ガリフィアナキス#ジャスティン・バーサ#どこまでもダメな人#トッド・フィリップス#ハングオーバー#ブラッドリー・クーパー
映画の中のダメな人を愛でて楽しむ性格の悪い連載が始まりますよ!
新連載の記念すべき第1回は、『アリー/スター誕生』(2019年)『ジョーカー』(2018年)などのトッド・フィリップス監督によるコメディ映画『ハングオーバー』シリーズです。
『ハングオーバー』といえば、色男ブラッドリー・クーパーの出世作として有名ですね。教師のフィル(ブラッドリー・クーパー)、歯科医のステュ(エド・ヘルムズ)、結婚を控えたダグ(ジャスティン・バーサ)、ダグの婚約者の弟で、ひきこもりのアラン(ザック・ガリフィアナキス)の4人(そのうちひとりは毎回行方不明か人質か留守番)が大暴れする、傑作おバカ映画です。
・クズ男を捨てたリケジョがアナログ男子に大接近! AIも分析不能な彼に胸キュン!
一作目『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009年)、二作目『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』(2011年)、そして、完結作『ハングオーバー!!! 最後の反省会』(2013年)の全三部作。一作目は、低予算ながらコメディ映画では記録に残る興行収入をたたき出した、おバカ映画界の金字塔的作品です。第67回ゴールデングローブ賞(2010年)最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル)を受賞。
すっぽり抜けた一晩の記憶、でも懲りない面々
さて、簡単なあらすじを。タイトル通り、「二日酔い」で毎回窮地に立たされるという大変に自業自得な内容となっています。
お酒とドラッグで正気を失くしているあいだに、盛大にやらかした数々のことがきっかけとなって、起きたトラブル。翌朝、何も思い出せないまま、後始末に奔走する3人。そういえばひとり足りない。車は消え、代わりに現れたのはパトカーでした。トランクからは、チャウと名乗る謎の中国人が飛び出してきます。
二作目では、ステュの結婚式のために国境を越えてタイのリゾートへ。男たちはビーチで焚き火をしながら一杯だけ乾杯したはずが、翌朝、汚いホテルで目が覚めて…。今度は花嫁の弟が行方不明、その代わりにいたのはなんと猿!
三作目は完結編で、ロードムービー仕立て。父を亡くしたアランはまともに暮らしていくと宣言し、リハビリ施設入所を決意する。送っていくのはあの3人。しかし、施設までの道のり、アランのメールのせいでマフィアに拉致され、トラブルに。そして、最後にはやはり……。
絶体絶命な状況に置かれたおバカたちの奮闘に胸が熱くなる
この映画の魅力は、なんといっても4人の絶妙なキャラクター設定。アホといえども複雑なパーソナリティを持つ登場人物たち。ダメな人×ダメな人の掛け合いに、ホロッとさせられたり考えさせられたり。ただのおバカ映画で終わらないところが、長年ファンの心を掴んで離さない理由なのでしょう。
ブラッドリー・クーパー演じるフィルは、比較的マトモな人という立ち位置。妻子持ちの教師という、一見普通の人ですが、教師なだけあって指導力は抜群! みんなを危険な方、危険な方へと導きます。
歯科医のステュは、ちょっと見栄っ張りな好青年。厳しい彼女の管理下にあるなど、ふだん抑圧されているからなのか、ここぞというときのふりきれ方がハンパなく、シリーズを重ねるごとにパワーアップ。演じるエド・フルムズは、最近だとアニメ作品『パンツマン』のパンツマン役で子どもたちからも人気ですね。筆者はエド・フルムズがイチオシです。
ジャスティン・バーサ演じるダグは普通の常識人ですが、付き合う友達が悪いので毎回酷い目に。友達選びの大切さを教えてくれていますね。
最後に、ザック・ガリフィアナキス演じるアラン。もしもアランのキャラクター設定が違っていたら、映画としての魅力は半減していたことでしょう。資産家の、現代でいう子ども部屋おじさんのアラン。今なら特性に名前が付くであろう独特な思考を持った、子どものような人物です。豪華な実家の自室に引きこもり、パパのお金で課金しながらオンラインゲームに勤しむ日々。その独特な行動の数々が、トラブルを引き起こしまくります。フィン、ステュ、ダグは若干引き気味ながら、そのままの彼を受け入れ、仲間として友情を深め寄り添い、ともに命の危険にさらされていきます。
大人になってからの友達のありかたとは
完結編では、アランの不祥事による心労で、発作に倒れた父親がそのまま他界するところから始まります。最期までアランの更生を望んでいた優しい父親でした。なのに葬儀では、「自分のままでいいとパパが言った」とスピーチする空気の読めなさ。残された家族はなんともいえない表情を浮かべます。
ですが、心の底では理解しているのです。自分という存在のどうしようもない、やるせなさを。そんなアランに手を差し伸べる仲間たち。素っ頓狂でも、変わっていても、仲間思いで自分なりですが芯のあるアランが、皆やっぱり好きなんですね。
なんとなくそばにいて、なんとなく分かり合える。友達って、そういうものですよね。人格者だから、伝えるのがうまいから、尊敬できるから好きなんじゃない。そこは恋愛と一緒のような。お互いが思い合うから成立するんだよね、とホロリ。
集まると最高に楽しいけど、問題を起こしちゃう。会うと面倒。でも、かけがえのない仲間。「もうしません」といいながら、また失敗しては笑いあう仲間。
そんなのいたことないよ、という人。昔はいたけど今はいないよ、という人。どちらの人もぜひ、見てほしい映画です。見終わったとき、あなたもきっと誰かに連絡したくなることでしょう。(文・イラスト:逸見チエコ/作家)
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