大手メディアを及び腰にさせる「21世紀最大の不祥事」とは?

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『ニュースの真相』
(C)2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved.
『ニュースの真相』
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『ニュースの真相』

ショッキングなニュースが次々と報じられ、1つひとつを消化しきれないうちに次の大事件が起きる。そんな日々を過ごしていると、12年前のアメリカ大統領選のまっただ中で起きた「ラザーゲート」事件もすっかり記憶の奥底に埋もれていた。ケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォード主演の『ニュースの真相』は、2004年9月に米CBSの報道番組『60ミニッツII』が報じた現職大統領の軍歴詐称疑惑のスクープ報道に始まった騒動を描く。

名物キャスターのダン・ラザーがアンカーを務める『60ミニッツII』では、再選を目指すジョージ・W・ブッシュ大統領が70年代に軍歴詐称し、ベトナム戦争行きを免れた疑惑を裏づける証拠を入手、2004年9月に報道した。大きな衝撃を与えたスクープだが、すぐに“証拠”とされた文書に偽造疑惑が持ち上がる。入念に取材し、確信をもって報じたはずが、疑惑を晴らそうと調査を続ければ続けるほど、状況は次第に不利になり、番組の顔であるラザーと敏腕プロデューサー、メアリー・メイプスは世間からの厳しい批判にさらされる。CBS上層部は内部調査委員会を設置、大統領に近い有力者もメンバーに名を連ねる委員会によって軍歴問題の取材は打ち切りが決定。ラザーとメイプス、彼女の指揮下で取材を行ったジャーナリストたちは窮地に立たされる。

11月にアメリカ大統領選挙が控えるこのタイミングで見る本作は興味深い。ラザーゲートから12年後の今も、二大候補の民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプはメディアを使って激しい舌戦を繰り広げているが、大手メディアは両者の直接対決を報じるものの、状勢を一変させるスクープ報道には及び腰のように見えるのは、21世紀最大のメディア不祥事と言われた「ラザーゲート」の記憶が生々しいからかもしれない。

本作は、CBSで『イブニング・ニュース』『60ミニッツII』を主に担当し、イラクのアブグレイブ刑務所の捕虜虐待の報告で05年に(放送界のピューリッツァー賞とも呼ばれる)ピーボディ賞を受賞したメアリー・メイプスの自伝の映画化。『ゾディアック』や『アメイジング・スパイダーマン』の脚本家、ジェームズ・ヴァンダービルトが脚色し、監督デビューを果たした。

メイプスを演じるのはケイト・ブランシェット。冷静な視点が不可欠なプロデューサーという立場ながら、自分の求める真実と事実の狭間で罠にはまり、仲間たちをも巻き添えにしてしまう。それでも信念を曲げずに奮い立たせる姿に、妻として母として、そして娘としての苦悩もにじませ、複雑な人物像を表現。厳しくも包容力ある伝説のアンカーマン、ラザーをロバート・レッドフォードが魅力的に演じている。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ニュースの真相』は8月5日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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