8月26日から公開され大ヒット中のアニメ映画『君の名は。』。大ヒットとなった大きな要因が「(ファミリーアニメとは異なる)夏に大人や若者が見るにふさわしい」アニメ映画に対する渇望感・待望感が観客にあったことが挙げられるだろう。配給元・東宝の発表では初日の客層は男女比が64対36、年齢層は10代が52.4%、20代が35.5%と、若者中心となっている。
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2010年以降、夏には常にスタジオジブリアニメか細田守監督の作品が公開されてきた。10年『借りぐらしのアリエッティ』(ジブリ)、11年『コクリコ坂から』(ジブリ)、12年『おおかみこどもの雨と雪』(細田)、13年『風立ちぬ』(ジブリ)、14年『思い出のマーニー』(ジブリ)、15年『バケモノの子』(細田)。今年はジブリ、細田監督作ともなく、大人や若者向けアニメに対する期待感に『君の名は。』が応えた。
また人気の要因として、新海誠アニメの良質感、若者に人気のRADWINPSが担当した音楽、『君の名は。』というタイトルから連想される王道の「すれ違いラブストーリー」が化学反応を起こした点もあるだろう。
東宝本体が配給するアニメ映画は「全国で興収10億円以上の大ヒットを狙う」ファミリー向けアニメが中心で、他社製作ばかり。毎年恒例の『ドラえもん』『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』『ポケモン』『妖怪ウォッチ』はテレビアニメの劇場版であり、スタジオジブリや細田守監督のオリジナルアニメも他社製作だ(東宝が製作委員会のメンバーとなり出資するケースは多々ある)。
東宝は12年に映像事業部内にアニメ事業室を新設(後に映像企画室アニメ事業グループに変更)。アニメレーベルTOHO animationを立ち上げ、アニメの制作に力を入れてきた。そして生み出されたのが、『弱虫ペダル』『ハイキュー!!』などのテレビアニメや『攻殻機動隊 ARISE』『亜人』などの劇場用アニメ。ただし、劇場用アニメは全国数十館の限定公開でアニメファンを対象した作品。配給も東宝本体ではなく「東宝映像事業部」として配給にあたってきた。『君の名は。』は、東宝のアニメ事業グループが製作し、東宝配給で全国300館規模で上映、初の全国的ヒットのアニメ映画なのだ。
『君の名は。』は、新海誠監督の前作『言の葉の庭』(13年)を東宝アニメ事業室でパッケージ販売と劇場公開を担当した縁で新海監督と東宝が企画段階からタッグ。プロデュースには『告白』『モテキ。』などで知られる川村元気氏があたり、新海監督の脚本づくりや音楽の選定作業に協力した。
スタジオジブリが新作の製作を中断。細田守監督が昨年の『バケモノの子』で58.5億円を記録し「ポストジブリ」としての興行的評価を確立する中、新海監督も同じポジションを確立したといえるだろう。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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