【男達の遠吠え】『悪名』前編
「仲良しの兄弟でええやないか」
昭和を代表する大スター、勝新太郎のあたり役といえば、『座頭市』と『兵隊やくざ』。そして忘れちゃならないのが1961年の大映映画『悪名』に登場する八尾の朝吉だ。原作は、天台宗の僧侶で、瀬戸内寂聴の師としても知られる直木賞作家・今東光の同名小説。スタッフは田中徳三監督、キャメラマンに宮川一夫、脚本に依田義賢と、巨匠・溝口健二の作品を支えた、大映の超一流のスタッフが勢ぞろい。芸術性と娯楽性がバランスよくミックスされた傑作となっている。また、この『悪名』は、勝新にとっても初のヒット作となり、後にシリーズ16本が制作された。
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ケンカはめっぽう強いが、情には厚い。「ヤクザは嫌いやねん」と言いながらも、人から頼まれれば嫌とは言えず、いつしかやくざ者の道へ。懐深く構えて、すべてを包み込む。勝新のあのクリッとした目の愛嬌(あいきょう)ある顔も相まって、朝吉という男は実にチャーミングな男としてのフェロモンを放っている。
二人はにらみ合い、一触即発、という険悪な雰囲気の中、朝吉は貞の手をつかんで自分の方にグッと引き寄せ、「仲良しの兄弟でええやないか」。そしてダメ押しの笑顔で「なっ」。ジワリ、ジワリとあふれ出てくる涙をこらえながら「兄貴…」。この時の田宮二郎の顔が実にいい。男が男に惚れるというのはまさにこういう顔のことを言うのであろう。
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