原作と映像化された作品を、重箱の隅をつつくように細か〜く比較する【元ネタ比較】。今回は『オーバー・フェンス』を取り上げます。
(…前編「オダジョー×蒼井優〜吉と出るか凶と出るか!?」より続く)
【元ネタ比較】『オーバー・フェンス』中編
所構わず披露するダチョウの求愛ダンスもスゴ過ぎる!
評判の良かった『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続き、函館三部作の最終章として佐藤泰志原作の「オーバー・フェンス」が映画化された。原作は佐藤泰志にしては珍しく、息苦しさの中にも前向きな軽やかさが感じられる、ドラマチックな要素の少ない原作だが、映画版はアレンジが加えられて趣きの違うドラマになっていた。
主人公・白岩の年齢設定が20代からアラフォーになっているのは時代的なことも考えると違和感はないとして、一番大きく異なっているのはヒロイン・さとしの存在。原作ではさとしは後半になってから登場し、少々過去はあるが、なんというか年齢のわりにはしっかりしていて嫌味のない花屋で働く女性だ。しかし、映画版では早々と登場するので作品全体としてラブストーリーの色が濃くなっているし、なんといってもさとしのキャラクターがまったく違う。
そして、このヒロインを演じるのは蒼井優。……うーん、ハマリ役と言えばハマリ役なのか!? 鼻に付くことこの上ない。エキセントリックで自己中なメンヘラ女としか思えず、申し訳ないが拒絶反応が出て、映画序盤に心のドアが閉まってしまった。
それでいて、最終的には原作「オーバー・フェンス」と同じ、希望を持たせる終わり方なわけだが、いやいや、この女相手じゃ見てるほうも楽観的な気持ちにはなれないって。それなら、鳥の羽が舞う幻想的な少女漫画シーンも飛び出すくらいだから、実はポップでキャッチーな(と個人的に思っている)山下敦弘監督らしく、さとしを複雑なキャラクターにせずにラブストーリーは甘々にしてしまっても良かったんじゃないだろうか。
その思い切りがつかないなら、いっそのこと佐藤泰志原作の本来のイメージのままの「黄金の服」を映画化したほうが、悲観的でも清々しい作品になった気がする。このアレンジした脚本で「オーバー・フェンス」をやるのであれば、キャスティングにもっとこだわって欲しかった。(文:入江奈々/映画ライター)
(…後編「オダギリジョー、勝ち組感がにじみ出てミスキャスト!?」に続く)
『オーバー・フェンス』は9月17日より全国公開される。
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