原作と映像化された作品を、重箱の隅をつつくように細か〜く比較する【元ネタ比較】。今回は『オーバー・フェンス』を取り上げます。
(…中編「自己中なメンヘラ女の蒼井優に拒絶反応!」より続く)
【元ネタ比較】『オーバー・フェンス』後編
人気俳優よりもっと勝負に出たキャスティングを!
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続き、函館三部作の最終章として佐藤泰志原作の「オーバー・フェンス」が映画化された。原作はアレンジされ、テイストが違ったドラマになっていた映画版。キャスティングにもっと趣向を凝らして欲しかった。
ヒロインが蒼井優なら、主人公の白岩は白岩で、演じるのはオダギリジョーなんだもの。白岩は人生うまくいかずにくすぶっている男だが、オダギリジョーが演れば無精髭もおしゃれアイテムに早変わり。劇中で若い女子に相手にされず管巻くシーンがあるが、何言ってんのイケメンのくせに、と思ってしまう。プライベートでは悲しい出来事もあったオダギリだが、やっぱりどうしても人生勝ち組に見えるのだ。
じゃ、どんなキャスティングならいいだろう。原作にも出てくる職業訓練校の仲間でやくざな男・原を演じる北村有起哉と、その妻役で『夢売るふたり』などの安藤玉恵が登場するが、ふと、この2人ならどうだろう?と頭によぎった。
うん、いい! すごくいい! 北村はブサイクではないけど薄幸そうで個性的な顔立ちだし、安藤玉恵のメンヘラ女なんて最高じゃん。むしろ見てみたいよ! オダギリジョーと蒼井優はどうやっても世界の中心で生きている感があるけれども、北村有起哉と安藤玉恵の2人なら社会の片隅の哀愁がちゃんと出る。この2人で見てみたかった。
前作の成功で、メジャーどころのキャスティングが可能になれば、ぜひともとなるのは十分理解できる。でも、ここは逆に、成功して佐藤泰志原作の映画=良作というブランドイメージもできてきているのだからこそ勝負に出て、人気ばかりじゃなく、見る者を唸らせる配役で納得させて欲しかった。あるいはドラマチックでなくても原作に忠実にするという勝負に出て、映画ならではの時間と空間の味わいで魅了して欲しかった。
『そこのみにて光輝く』で取材した星野秀樹プロデューサーには熱い映画人魂を感じたし、インディペンデント系の作品を応援したいのはやまやまだ。しかしながら、前2作が良くて期待しすぎてしまったせいか、否定的になってしまって心苦しい。
北村有起哉と安藤玉恵のほか、チャラい松田翔太やコミュ障な満島真之介も良かったし、職業訓練校に通う日常は好ましかった。原作を読まずに見たなら、印象は違ったかもしれない。本作が気になる方はぜひ、自分の目でしっかりと見届けて欲しい。(文:入江奈々/映画ライター)
『オーバー・フェンス』は9月17日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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