シェップ・ゴードン。一般的に知名度はないが、70年代から活躍するアメリカ音楽業界の大物であり、時代を読んでヒットを生み出す才能を活かして映画や飲食業でも成功を収めた男。現在はハワイで悠々自適のセミリタイア生活を送る彼の半生を、本人と関係者たちのインタビューをまじえて追ったドキュメンタリーが『スーパーメンチ -時代をプロデュースした男!-』だ。
比類なき才能がダークサイドに呑み込まれていく悲劇、壮絶すぎる歌姫の生涯
今年70歳のシェップ。アリス・クーパーと四十数年来の二人三脚のマネージャーであり、マネジメントを手がけたのはブロンディ、フランキー・ヴァリ&フォー・シーズンズ、テディ・ベンダーグラス、ジプシー・キングス、それにマルクス兄弟のグルーチョ・マルクス等々、多岐にわたるジャンルのアーティストたち。映画プロデューサーとしてもアカデミー賞受賞作『蜘蛛女のキス』やアラン・ルドルフ、ジョン・カーペンターの監督作を手がけ、さらにカリスマシェフ・ブームを仕掛け、シャロン・ストーンのかつての恋人であり、あのダライ・ラマの朝食係を務めたこともある。
しかし、会話の中にしょっちゅう有名人の名前が出てくると胡散臭いイメージになるものだが、シェップの場合はその交流が基本的にはどれも事実なのだ。証言者として次から次へと登場するセレブたちが、本当に楽しそうに、愛情を込めてシェップについて語る。そこから浮かび上がるのは、才能を見抜く眼力、時代と大衆に合わせたエンターテインメントをプロデュースするセンス、そして義理堅く面倒見のいい人柄だ。窮地を救ってくれた相手には、「クーポンを使う」と称して一生かけて恩返しする。面白いと思ったものを世間に売り込むためのあの手この手、人間関係を大切にし、人と人をつなぐ手腕。これをそのまま真似するのは到底無理だが、破天荒を絵に描いたような怪人の哲学には学ぶところが多い。
一方でマイヤーズは、仕事人間のシェップが呪文ように唱え続けた「失うものは何もない。俺には家族がいないんだ」という言葉が、家庭というものへの強すぎる憧憬の裏返しであること、多くの才能を育ててきたシェップ自身の孤独にも光を当てている。
スーパーメンチのメンチ(Mensch)とはイディッシュ語で「誠実で高潔な人」という意味。シェップの親友で、妻にも打ち明けない話を彼にはするというマイケル・ダグラスは「“メンチ”とシェップは同義語だ」と言う。海千山千の大スターに「心から信頼できる」と言わせる男は、やはりそれだけの価値がある、比類なきメンチなのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『スーパーメンチ -時代をプロデュースした男!-』は2016年9月24日より全国順次公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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