【映画を聴く】『淵に立つ』後編
エンディング曲は大型新人のHARUHIが担当」
本作『淵に立つ』の音楽的な聴きどころは、足踏みオルガンの音色の他にもうひとつある。17歳の女性シンガー・ソングライター、HARUHIの歌う主題歌だ。
前編の最後で触れたように、本作は深いエコーのかけられた「紡ぎ歌」で幕を閉じるが、続いてかかるのが彼女の「Lullaby」というアコースティックな小曲。小林武史の作詞/作曲/プロデュースによるデビュー曲「ひずみ」が大ヒット映画『世界から猫が消えたなら』の主題歌に起用されて話題となったが、今回の「Lullaby」は彼女のオリジナル(プロデュースは引き続き小林武史)。アメリカ生まれのバイリンガルという素性を活かした全編英語詞の楽曲となっている。
また、深田監督が直々に手がけたこの曲のMVは、映画のセットの中に横たわる彼女の死体(!)が徐々に蘇っていく様子を1カメの長回しで絵画的に描いたもの。映画を見終わった後に見ると、その歌と映像に込められた意図をより反芻することができると思う。
デビュー後、HARUHIは小林武史と前妻でMy Little Loverのakkoとの間に生まれた次女であると一部メディアが報じたが(長女は同じく小林のプロデュースで今年デビューしたanderlustの越野アンナ)、彼女自身が独自性の高いシンガー・ソングライターであることは間違いない。弱冠17歳、これからどんなキャリアを重ねていくのか楽しみだ。
カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した本作。公開後は放っておいても多くの賛辞が寄せられるに違いないが、音楽だけに絞って見てもその個性は際立っている。エンタメ映画的な清々しいカタルシスとは無縁ながら、何度も見て聴いて噛みしめたくなる一本である。(文:伊藤隆剛/ライター)
『淵に立つ』は10月8日より全国公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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