(…中編「就活とSNSでがんじがらめの若者たち〜」より続く)
【元ネタ比較】『何者』後編
SNSの毒の部分に切り込むも…
就活する学生たちを描いた朝井リョウ原作の直木賞受賞作「何者」が、佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉ら豪華キャストで映画化された。映画版の監督を務めるのは自作の舞台を映画化した『愛の渦』で注目される、劇団“ポツドール”の主宰者でもある三浦大輔だ。
おそらく三浦監督は就活の経験があまりないんじゃないだろうか。経験した者なら誰もが思い出したくもない、自己をさらけだしては否定されるという逃げ出したくなるほどの息苦しさがあるものだが、それが感じられないのだ。
それならそれで、原作でも実はこちらの方がメインではないかと思われる“SNS事情の毒素”のようなものがきちんと作用していたかというと、残念ながらそれも形式的にしか伝わってこなかった。SNSに関しては、“SNSで建て前と本音が違ったり、リア充アピールをするのが現代を象徴する若者像だ”というものが、原作が出版された2012年には最も旬なネタだったかもしれないが、今は定着して色褪せてきているせいじゃないだろうか。
SNSをセンセーショナルに扱うのはいささか白けて見えてしまった。旬のネタを取り上げた作品は鮮度の落ちないうちに仕上げて提供するのが得策のようだ。
本作でいちばん光って見えた箇所を挙げるなら、主人公の心情を舞台に模した演出で見せていくシーン。やはり三浦監督は舞台演出が好きで、そのフィールドでこそイキイキとできるのだろう。(文:入江奈々/映画ライター)
『何者』は10月15日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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