・(…前編「あらゆる場面に薄気味悪いモチーフ満載」よりつづく)
【映画を聴く】『ダゲレオタイプの女』後編
黒沢清監督の新機軸にして集大成
『ダゲレオタイプの女』の音楽は、『パパの木』や『あの頃エッフェル塔の下で』でセザール賞にノミネートされた実績を持つフランスの作曲家、グレゴワール・エッツェルが担当。サスペンスやサイコスリラー、ラブロマンスといった要素が複雑に絡み合う作品だが、音楽はオーソドックスで上品な器楽曲で統一され、時にはメロドラマのように叙情的な旋律すら聴かせる。
しかし本作の場合、“音楽の鳴っている場面”は“鳴っていない場面”を引き立てるために用意されていると言ってもいいほど、静寂の印象が強烈だ。概して映像的に弱いシークエンスに音楽があてがわれており、だからこそ後に訪れる静寂が重苦しく、不穏なものに感じられる。
まもなく開催される東京国際映画祭では、マーティン・スコセッシ監督と共にSAMURAI賞を受賞した黒沢監督。すでにヨーロッパを中心とした海外での評価は確立されているいっぽう、国内では『リアル〜完全なる首長竜の日〜』の綾瀬はるか&佐藤健、『Seventh Code』の前田敦子といったスター俳優を起用しながら、そのファン層が求める以上に濃厚な映画を撮ることで微妙な温度差を生んでいる観は否めない。
“初の海外進出作品”と謳われている『ダゲレオタイプの女』だが、黒沢清という映像作家の本質をフラットな目で確かめることができるという意味では、むしろ日本の映画ファンこそがまず見るべき映画と言えそうだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
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