ラブコメ、アクション、ホラー……。どんな映画でも、ついつい“子育て”に結びつけて見てしまうママさんライターが、話題作をママ目線で取り上げます!
【ついついママ目線】
『この世界の片隅に』前編
ほっこりと優しく穏やかな気持ちに
人災であろうと天災であろうと、何か大きなニュースがあるとゾッとする。我が子にこんな事が降りかかったら、と思うと。不穏な世の中を見ると、こんなところに産声をあげさせて果たして良かったのかしら、と不安になる。その最たるもののひとつは戦争だろう。
こうの史代原作の同名漫画を劇場アニメ化した『この世界の片隅に』は第二次世界大戦前後の広島を舞台にしたヒューマンドラマだ。しかし、戦争ものだからと言って、悲愴で辛くて苦しくて、見た後にどんよりとしてしまう作品ではない。戦争を題材にしていて、事実から目を背けずに真っ向から描いているにも関わらず、こんなにほっこりと優しく穏やかな気持ちになる作品も珍しいのじゃないかと思うほどだ。この作品の良さはまさにそこにあるだろう。
主人公のすずがちょっと抜けていて天然なところもいい。すずの声は能年玲奈、改め“のん”が務めており、事務所独立騒動で活動が停滞気味だった彼女の久しぶりの本格的な芸能活動だ。つかみどころがなくのほほんとしているすずと、のんのキャラクターが重なって彼女の柔らかく聞き心地のいい声が合っている。のんがこの作品で再スタートを切れたことも他人事ながらホッとさせられ、作品に花を添えるのに一役買っているだろう。
原作者のこうの史代は原爆を扱った「夕凪の街 桜の国」でも知られ、「この世界の片隅に」は“THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!”でも第1位を獲得する根強い人気だ。監督は『マイマイ新子と千年の魔法』が口コミで異例のロングランヒットを放った片渕須直が手がけている。今回、劇場アニメ版が制作される際には、クラウドファウンディングでわずか9日間で目標金額の2000万円を突破したことも話題となった。
制作に向けて片渕監督は気の遠くなるぐらい綿密な調査や時代考証を行っている。何もオタク根性で無駄にこだわったわけじゃない。この作品は庶民の文化こそ命だからだ。(中編へ続く…)
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