(…前編「『60年代の映画の匂い』と坂本龍一も絶賛! 〜」より続く)
【映画を聴く】『雨にゆれる女』後編
優香の夫、青木崇高が過去を隠す謎の男に!
前編で触れた坂本龍一のコメントからも分かるように、半野喜弘監督『雨にゆれる女』は、エンタメ性や爽快な後味とは無縁の作品だ。主演の青木崇高と大野いとは、言葉や感情を極限まで削ぎ落とし、息づかいと間合いで孤独や優しさを表現する。劇伴は半野監督の“分身”として、見る者に二人の心情や置かれた状況を説明する語り部のよう。その殺伐とした物語とは反対に、映像はどこまでもリッチだ。濃厚で深みのある色彩と光が、雨に濡れた街やうらびれた工場に特別な存在感を加えている。
タレントの優香と結婚したことで一躍世間の注目を浴びた青木崇高だが、役者としては何と言ってもまず『るろうに剣心』の相楽左之助として知られる。そのワイルドな風貌や左之助という役柄から自由で豪放なイメージの強い人だが、実生活でもバックパッカーとして世界を旅行して友だちを作るようなタイプらしく、半野監督との交流も旅先のパリで偶然始まったものだという。半野監督は本作を撮影するにあたり、最初から主役には青木を想定していたといい、役者としての彼の別の一面を掘り当てることに成功している。
“言文一致”ならぬ“像音一致”。半野喜弘にとっての映画づくりは、作曲やプロデュースの仕事とどこまでもシームレスにつながっているように思える。音楽家としての半野喜弘が好きな人ならスッと入っていけるに違いない。(文:伊藤隆剛/ライター)
『雨にゆれる女』は11月19日よりテアトル新宿にてレイトショー公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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