(…前編「のし上がるためなら人殺しも!? 音楽業界描く超辛口ブラック・コメディ」より続く)
【映画を聴く】『マッド・ドライヴ』後編
音楽を担当するのは
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジャンキーXL
主人公のスティーブンや彼の同僚だちが手がけるアーティストは基本的に架空の設定で、その音楽や劇中曲はおもにジャンキーXLが担当している。ジャンキーXLはオランダ人のトム・ホーケンバーグによるソロ・ユニットだが、彼自身もまた90年代のブリットポップ・ブーム以降の流れに乗ってブレイクしたミュージシャンのひとりだ。劇中でも使用されるケミカル・ブラザーズやプロディジーといったデジタル・ロック系ともつながりの強い、いわゆるビッグ・ビート系の音楽を90年代の終わりから作り始め、2002年にiPodのCMに起用されたエルヴィス・プレスリー「A Little Less Conversation」のリミックスが大ヒットを記録している。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の音楽が高く評価されたことから、近年は映画音楽も精力的に手がけており、今年も『デッドプール』と『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の2本を担当。スピード感とスケール感を兼ね備えた音作りは、ヒロイックなアクション映画との親和性がすこぶる高い。本作『マッド・ドライヴ』には派手なアクションシーンはないが、その展開の早さ、テンポの小気味よさに彼の音楽の貢献ぶりは明らかだ。
本作ははっきり言って、音楽好きが見て愉快な映画ではないかもしれない。サスペンスとしても、舞台をそのまま銀行や商社に置き換えることができそうな、きわめてオーソドックスなものだ。ただ、年間10億ポンドもの売り上げを記録したブリットポップ・ブームの裏側でこんなことが行なわれていたら……という思考実験は興味深く、ジョン・ニーブンの原作『Kill Your Friends』の翻訳も読んでみたくなる。(文:伊藤隆剛/ライター)
『マッド・ドライヴ』は11月26日より公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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