【2016年の映画界を振り返る・ハリウッド編/後編】
●大物監督が暴行シーンの撮影秘話を告白し批判噴出
今年も残りわずかとなった頃、突如騒動となったのが、イタリアの名匠ベルナルド・ベルトルッチ監督の1972年公開作『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の性描写撮影についての問題提起だ。撮影当時19歳の新進女優だったマリア・シュナイダーが主演のマーロン・ブランド(当時48歳)から暴行されるシーンで、シーンの詳細について知らされないまま撮影が行われた事実をベルトルッチ本人が2013年に語ったインタビュー動画の存在が注目され、その手法に多くの批判が寄せられた。
●ハリウッドの人気若手俳優が怒りのツイートを拡散
ジェシカ・チャステイン、エヴァン・レイチェル・ウッド、アナ・ケンドリックやクリス・エヴァンスといったハリウッドの人気若手俳優は怒りをツイート。フォロワー数が多い彼らの意見表明によってニュースは一気に拡散、そのうちにマリア・シュナイダーが撮影中に実際に暴行されたという誤解も広まるに当たって、ついにベルトルッチ監督が反論声明を発表。暴行シーンは脚本上にあり、シュナイダーは事前に知っていたが、撮影当日の朝にブランドと2人でバターを使うと決めたことを彼女に撮影前に伝えなかったこと、撮影で実際の性行為はなかったことを言明した。
ブランドは2004年に、シュナイダーは2011年に亡くなっている。ベルトルッチは2013年のインタビューで、シュナイダーに詳細を伝えなかった理由について、女優としてではなく女の子としての反応が欲しかったからだと説明。彼女に対して「罪悪感はある」としながらも、撮影法そのものについては「後悔はしていない」と断言している。芸術家のアプローチは苦しみを伴うことも多いが、ただ1人で取り組むものと違い、多くの人間の力が介在して成り立つ映画芸術において、監督のヴィジョンの実現はどこまで許されるのか。よく使われる「妥協のない演出」という言葉について考えさせられる。
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