生理的にムリ、という人がいて不思議ではない。賛否分かれる園監督の問題作

#アンチポルノ

『ANTIPORNO アンチポルノ』撮影中の冨手麻妙(左)と園子温監督(右)
(C)2016日活
『ANTIPORNO アンチポルノ』撮影中の冨手麻妙(左)と園子温監督(右)
(C)2016日活

…前編「20代の若さと50代の色香〜」より続く

【映画を聴く】『ANTIPORNO アンチポルノ』/後編
音楽はいたってオーソドックスなロマンポルノ・マナー

あらゆる意味で型破りに思える園子温監督『ANTIPORNO アンチポルノ』だが、音楽はきわめてオーソドックスで、いかにもロマンポルノという印象の、メロウな室内楽を中心としている。逆に言えば、クラシック・ロマンポルノを思い起こさせる唯一の要素が音楽であり、ワルツタイムの舞踏曲やパッヘルベルの「カノン」といった劇伴に彩られることで本作はかろうじてロマンポルノとしての体裁を保っているようにも思える。

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音楽を担当しているのは、アニソンやゲーム音楽の世界を中心に活動する作曲家/アレンジャーの秋月須清。園監督作品では『TOKYO TRIBE』や『リアル鬼ごっこ』、『みんな!エスパーだよ!』も共同で手がけており、そのほかにも『ニセコイ』や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などのアニメの劇伴や主題歌で知られる。音楽プロデュースを担当する菊地智敦とは『TOKYO TRIBE』でもコンビを組んでおり、2人はオリジナル曲と既成曲をメリハリよく並べた、どこまでもスムーズで甘美なサウンドトラックを作り上げている。

本作では中盤に、きわめてダイナミックな物語の“転調”が用意され、それを境に冨手麻妙の演じる京子と筒井真理子の演じる典子の関係性やキャラクターはガラッと入れ替わってしまうのだが、そこでも音楽は冷静に、淡々と映像に寄り添っている。エキセントリックな人間しか出てこないこの映画における定点観測者として、その役割はかなり重要だ。

以前からロマンポルノ・ファンを公言し、メジャー作品でもこっそりとその影響を忍ばせていた行定勲監督による『ジムノペディに乱れる』。今回の5作では唯一のコメディ・タッチで、音楽的にも多彩なアプローチが聴ける塩田明彦監督の『風に濡れた女』。現代の風俗業界を舞台に、現代版ロマンポルノの王道を行く作品に仕上げられた白石和彌監督の『牝猫たち』。この3作を受けての『ANTIPORNO アンチポルノ』は、次に控える中田秀夫監督『ホワイトリリー』を含めても、最も賛否の分かれる作品になるだろう。他の園監督作品同様、生理的にムリ、という人がいて不思議ではないし、これはロマンポルノではない、という意見も出てくるかもしれない。しかし本作がロマンポルノの自由度をさらに押し広げることは間違いなく、斬新な解釈の新作が今後も生まれることを期待せずにはいられない。(文:伊藤隆剛/ライター)

『ANTIPORNO アンチポルノ』は1月28日より公開。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。