【映画を聴く】番外編/1月のオススメ映画 後編
シュールで過激な映像に寄り添う手堅い劇伴は必聴!
●『未来を花束にして』(1月27日公開)
100年前のロンドン。女性の選挙権を求めて活動を行なうWSPU(女性社会政治同盟)のリーダー、エメリン・パンクハーストを演じるのはメリル・ストリープ。ひどい環境下で働くことに疑問すら感じずに洗濯女として日々を過ごしてきた一児の母親、モードにキャリー・マリガン。そのモードや息子に辛く当たる夫のサニーにベン・ウィショー。女流監督のサラ・ガヴロンによる本作は、邦題がそのまま内容を言い表している。重厚でドラマティックなスコアが、100年前の激動のロンドンを映画的に盛り立てる。“英国男子”の注目株であるウィショーの傍若無人な亭主関白ぶりも強烈な一作だ。
・20代の若さと50代の色香、冨手麻妙と筒井真理子“ハダカの競演”の吸引力
●『なりゆきな魂、』(1月28日より公開)
原作は、つげ義春の弟で寡作の漫画家、つげ忠男。つげ義春『ゲンセンカン主人』の映画化で義春役を、つげ忠男『無頼平野』の映画化で忠男役を演じた佐野史郎が、再度ここでも忠男を演じている。とにかくシュールでエクストリーム。普通の笑いや涙などは期待するべくもなく、痛みや破壊、空虚といったトーンがレイヤー状に折り重なっていく。音楽は『八日目の蝉』で高い評価を得た安川午朗。最近も『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』などを手がけている安川は『情熱大陸』のメインテーマなども手がけており、その作風は幅広い。本作でも原作にある“間”を掬い取った映像に、的確で手堅い劇伴をあてがっている。
●『エリザのために』(1月28日公開)
クリスティアン・ムンジウ監督がカンヌ国際映画祭で3度目の監督賞を受賞した作品というだけあって、さまざまな角度から何度も見返したなる作品だ。娘を“当然そうなるべきだった”進路に向かわせるため、次第に倫理を踏み外していく父親。見る者を他人事にさせておかない迫真のストーリーテリングが素晴らしく、音楽だけを切り取ってああだこうだ語ることが不可能なほどすべての要素が強く結びついている。この父親と同世代の人だけでなく、娘の世代の人にこそ見てほしい感動作だ。
(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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