たった500人で100万人の軍に立ち向かう! 搾取に怒り理想を掲げた男に胸熱

#ニュートン・ナイト#週末シネマ

『ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男』
(C)2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
『ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男』
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『ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男』
オスカー助演男優賞最有力のマハーシャラ・アリも出演
知られざるアメリカの英雄の物語

どんな国にも、自国民以外、あるいは自国民にさえ知られざる歴史がある。マーティン・スコセッシ監督が『沈黙 -サイレンス-』で描いた世界もその一例だろう。筆者にとっては『ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男』がそうだった。

大スター、トム・クルーズがオヤジな役を嬉々として演じる理由とは?

ニュートン・ナイトは19世紀の南北戦争時代、農民から南軍の兵士になった実在の人物。貧者が富める者の犠牲になり続ける現実に怒り、まだ少年の甥が銃弾に倒れたのを機にナイトは軍を脱走、ミシシッピ州で白人の脱走兵と農民、逃亡した黒人奴隷で結成された約500人の反乱軍を率いて、南軍に立ち向かった。

凄惨な戦場を生々しく描く映像、マシュー・マコノヒーが演じるナイトが反乱軍とともにミシシッピ州のジョーンズ郡で「自由州」(原題でもあるFree State of Jones)としてコミュニティを作っていく過程と第二次世界大戦直後のとある裁判の法廷が交錯する構成で、弱者が圧倒的な強者と戦う物語だ。

ナイトの行動は一見、「アメリカ・ファースト」を合言葉に弱者の味方の立場をとるドナルド・トランプ大統領の姿勢とも重なりそうだが、大きく違うのはジョーンズ自由州が掲げる4原則だ「貧富の差を認めない、何人も他の者に命令してはならない、自分が作った者を他者に搾取されることがあってはならない、誰しも同じ人間である。なぜなら皆2本足で歩いているから」。

ナイトは肌の色や宗教、貧富の差にとらわれず、女性や子どもも含めて誰もが平等なコミュニティを、リンカーン大統領よりも先に実現させようとした。マコノヒーはナイトの独立心とカリスマ性に説得力を持たせつつ、決して完璧ではない人間らしさも表現している。そして、彼に勝る強い印象を残すのは、ナイトの右腕となる奴隷のモーゼスを演じたマハーシャラ・アリだ。現在、『ムーンライト』(4月公開予定)で映画俳優組合(SAG)賞助演男優賞を受賞し、アカデミー賞でも本命視されている彼は、本作では誇り高く聡明な男を演じている。

監督、製作、脚本を手がけたのは『シービスケット』、『ハンガー・ゲーム』のゲイリー・ロス。南北戦争下の19世紀と20世紀の法廷という2つの場所を通して、アメリカの歴史の一面を描こうという気迫が伝わってくる。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男』は2月4日より全国。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。