(…前編「多くの引き出しを隠し持った新星! ハーヴァード大卒天才の登場に期待膨らむ」より続く)
【映画を聴く】『ラ・ラ・ランド』を最強ミュージカルにしている要素とは?/後編
ジョン・レジェンドの起用も音楽的な見どころ
本作『ラ・ラ・ランド』の音楽的な見どころ&聴きどころは他にもたくさんあるが、その最たるものが主演のライアン・ゴズリングのピアノの腕前。今回のアカデミー賞では残念ながら主演男優賞は逃しているが、差し替え一切なしの彼のピアノ演奏が作品にリアリティを与えていることは明らかだ。3ヵ月間の集中レッスンを経て、手もとのクローズアップを含むすべてのシーンを自分で弾きこなすまでに上達したという。
物語の冒頭、彼の演じるセブは大渋滞の車中でカーステレオのテープを何度も何度も巻き戻し、セロニアス・モンクのピアノのある特定のフレーズを聴いている。その後自宅に帰ると、今度は同じ曲をレコードで何度も聴き返し、完コピを試みる。本業のジャズピアニストだけでは食っていけないため、パーティバンドのキーボード奏者としてa-haの「テイク・オン・ミー」を弾いたりもする。そんな演技のひとつひとつに説得力があり、見る者の意識からセブとライアン・ゴズリング本人の“境目”が取り払われていく。
ミュージシャンのジョン・レジェンドを役者として起用していることも音楽的には大きな話題だ。彼が演じているのは、オールドスタイルのジャズにこだわる不器用なセブと対照的に、時流に合わせてスタイルを柔軟に変化させて大スターに上りつめたキースという男。言ってみれば現代のジャズ界におけるロバート・グラスパー的な役回りなのだが、劇中で歌われるオリジナル曲「Start A Fire」は彼のヴォーカルをフィーチャーしたジェントルなポップソング。90年代のエリック・クラプトンが歌っていてもおかしくないヒットチャート・フレンドリーな曲調は、普段の彼が歌っている硬派なR&Bとはずいぶん趣が異なるので、彼のファンも新鮮に楽しめるはずだ。
上昇志向をたぎらせた役者や音楽家がハリウッドで名声を得るために失うものを描いた『ラ・ラ・ランド』は、シンプルな恋愛映画であると同時に、現実と並行する“たられば”の世界を悲劇的/喜劇的に見せるファンタジー映画でもある。その複雑に絡まった構成要素を解きほぐしながら、何度も味わいたい作品だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ラ・ラ・ランド』は公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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