(…前編「カセットテープを見たことのない子どもたち〜」より続く)
【映画を聴く・番外編】3月のオススメ映画/後編
●『SING/シング』(3月17日公開)
目下、大ヒット中。『ミニオンズ』のチームが手がける音楽エンタテインメント作品だ。とにかく選曲のセンスが絶妙で、ベタな曲とマニアックな曲のメリハリで、終始心踊らされる。レナード・コーエン「ハレルヤ」、ビートルズ「Golden Slumbers/Carry That Weight」、ドゥービー・ブラザーズ「Listen To The Music」、レディー・ガガ「Bad Romance」、クィーン&デヴィッド・ボウイ「Under Pressure」など、オリジナル/カヴァーを織り交ぜながら60曲以上のポップ・ミュージックがスクリーンを彩る。主題歌はスティーヴィー・ワンダー&アリアナ・グランデのコラボによる「Faith」。とにかく豪華で煌びやか、それでいて親しみやすい作品に仕上がっている。日本語吹替版のプロデュースは蔦谷好位置といしわたり淳治が担当。
・【映画興収レポート】『SING シング』の全編吹き替え版が許可されたのは日本だけ!
●『おとなの事情』(3月18日公開)
“あなたのスマホ、他人に見せられますか?”というキャッチコピーが付けられた、パオロ・ジェノヴェーゼ監督によるイタリアの大ヒット・コメディ。すでにリメイクのオファーが世界中から届いているとのことで、よく作り込まれた舞台を見ているような感じで一気に見せる96分だ。会話のテンポの変化によって次々とトーンが変わっていく映像に対して、劇伴はグッとトーンを抑えたストイックなもの。普段、日本ではなかなか接する機会のないイタリアのポピュラー・ミュージックがところどころで効果的に挟み込まれるのもいい。
●『タレンタイム〜優しい時間』(3月25日公開)
2009年に亡くなったマレーシアの女性監督、ヤスミン・アフマドの遺作が8年の歳月を経て劇場初公開。とある音楽コンクールを巡って心を通わせる若者たちを描いたドラマで、ドビュッシーの「月の光」やバッハの「ゴールドベルク変奏曲」(映画『ハンニバル』などで知られる)のほか、ラーハット・ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの歌う「オー・レー・ピヤー/おお、愛しい人よ」などが効果的に使われる。中でも印象に残るオリジナル曲「アイ・ゴー」「エンジェル」を書いているのが、音楽監督のピート・テオ。マレーシアを拠点にシンガー・ソングライター、映画音楽家、俳優、プロデューサーとしてマルチに活躍する人物で、まもなく公開される『ゴースト・イン・ザ・シェル』には役者として出演したりもしている。
●『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(3月31日公開)
ジョン・F・ケネディ大統領夫人、ジャクリーン・“ジャッキー”・ケネディをナタリー・ポートマンが演じる話題作。テキサス州ダラスでのケネディ大統領暗殺から、3日後の葬儀までの出来事を中心に、ジャッキーの知られざる姿にスポットを当てている。ナタリー・ポートマンのアカデミー賞主演女優賞ノミネートが大きな話題になったが、音楽のミカ・レヴィも本作で作曲賞にノミネートされている。レヴィは伝記映画にありがちな壮大かつキャッチーなスコアではなく、現代音楽に近い不穏なトーンを持つスコアを多く提供。数奇な運命に翻弄されたジャッキーの生涯に深い陰影感を加えている。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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