愛くるしい表情と自然な演技で5歳の子の波乱を体現! 名子役の熱演に感動

#LION/ライオン〜25年目のただいま〜#週末シネマ

『LION/ライオン ~25年目のただいま~』
(C)2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』
(C)2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

セレブ・オーラ消し去ったキッドマン演技も必見!
『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』

サブタイトルで察しはつくストーリーだが、その展開および当事者の人々の思いに大きく心を動かされる。ひねらず狙わず、直球で語る素直さが『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』の魅力だ。

いろいろな意味で後生に残る『ムーンライト』はなぜこんなに素晴らしいのか?

5歳で迷子になり、オーストラリア人夫婦に引き取られて育ったインド出身の青年が、Google Earthを使って生まれ故郷を探し出し、生き別れになった家族との再会を目指したという実話を映画化した本作は第89回アカデミー賞で、作品賞、脚色賞、助演男優賞(デヴ・パテル)、同女優賞(ニコール・キッドマン)など全6部門にノミネートされた。

1986年、インドの貧しい家庭に生まれた5歳のサルーは、家計を助けるために働きに出る兄について行った先の駅で迷子になってしまう。家族や故郷から引き離され、戻るすべをなくしたサルーはやがてオーストラリアへ養子に出されることに。実子のいない白人の夫婦のもとで慈しんで育てられた彼は、オーストラリア人としてのアイデンティティを確立し、仕事や恋人にも恵まれて前途は明るい。だが、何不自由ない幸せな生活を送る中で、心の奥底にしまっていた郷愁が頭をもたげてくる。

人種を越えた家族観が胸に響く

立派に育ててくれた“両親”と血を分けた“家族”への思いの板挟みで苦悩する主人公のサルーを演じるのは『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル。欧米的価値観とインドのルーツを併せ持つ彼は、まさに適役。オスカーでは助演男優賞のカテゴリーに入ったが、まごうことなき主役だ。そして5歳のサルーを演じたサニー・パワールの熱演も忘れがたい。数千人の候補者の中から抜擢されたムンバイ出身のサニーは愛くるしい表情と自然な演技で、5歳の男の子が経験した波乱の日々を全身で体現している。

育ての母を演じたニコール・キッドマンも素晴らしい。ゴージャスなオーラを消し去り、素朴なオーストラリア女性になりきった彼女自身、かつてトム・クルーズと結婚していた時に養子2人を迎え入れて育てた経験がある。そうした彼女自身の背景は本作には欠かせない要素だったにちがいない。悩みながら実の家族を探したいと打ち明ける息子に、なぜ自分たちはインドから養子を迎えたのかを語って聞かせる言葉には、人種や国籍にこだわらず家族になろうと考える人たちの思いが込められている。(文:冨永由紀/映画ライター)

『LION/ライオン ~25年目のただいま~』は4月7日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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