セレブ・オーラ消し去ったキッドマン演技も必見!
『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』
サブタイトルで察しはつくストーリーだが、その展開および当事者の人々の思いに大きく心を動かされる。ひねらず狙わず、直球で語る素直さが『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』の魅力だ。
・いろいろな意味で後生に残る『ムーンライト』はなぜこんなに素晴らしいのか?
5歳で迷子になり、オーストラリア人夫婦に引き取られて育ったインド出身の青年が、Google Earthを使って生まれ故郷を探し出し、生き別れになった家族との再会を目指したという実話を映画化した本作は第89回アカデミー賞で、作品賞、脚色賞、助演男優賞(デヴ・パテル)、同女優賞(ニコール・キッドマン)など全6部門にノミネートされた。
1986年、インドの貧しい家庭に生まれた5歳のサルーは、家計を助けるために働きに出る兄について行った先の駅で迷子になってしまう。家族や故郷から引き離され、戻るすべをなくしたサルーはやがてオーストラリアへ養子に出されることに。実子のいない白人の夫婦のもとで慈しんで育てられた彼は、オーストラリア人としてのアイデンティティを確立し、仕事や恋人にも恵まれて前途は明るい。だが、何不自由ない幸せな生活を送る中で、心の奥底にしまっていた郷愁が頭をもたげてくる。
人種を越えた家族観が胸に響く
育ての母を演じたニコール・キッドマンも素晴らしい。ゴージャスなオーラを消し去り、素朴なオーストラリア女性になりきった彼女自身、かつてトム・クルーズと結婚していた時に養子2人を迎え入れて育てた経験がある。そうした彼女自身の背景は本作には欠かせない要素だったにちがいない。悩みながら実の家族を探したいと打ち明ける息子に、なぜ自分たちはインドから養子を迎えたのかを語って聞かせる言葉には、人種や国籍にこだわらず家族になろうと考える人たちの思いが込められている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』は4月7日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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