大林宣彦監督の『四月の魚』に出演
【YMOと映画音楽】その2:高橋幸宏
高橋幸宏が最初に映画と接点を持ったのは、主演と音楽を担当した1986年5月公開の大林宣彦監督『四月の魚』。同じく大林監督の1984年12月公開作品『天国にいちばん近い島』にも役者として出演しているが、『四月の魚』は『天国に~』よりも先の1984年春頃にはすでに完成していて、公開されるまで2年ほどお蔵入りになっていたようだ。
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2006年にリマスター再発された同作のサウンドトラックCDのブックレットに、高橋が映画に出演した経緯についてインタビューで答えている。なんでもビリー・ワイルダー監督のようなコメディ映画を撮りたいと思っていた大林監督に、YMOのファンだった娘の大林千茱萸が「絶対この人でやるべき」と薦めたのだとか。1982年にYMOが人気漫才番組『THE MANZAI』に出演して、トリオ・ザ・テクノとして漫才を披露した様子を思い出したのだという。
本人のイメージに近い、都市生活者の生活ぶりを演じる
高橋幸宏が演じるのは、初監督作品が評価されたものの商業的に振るわず、それ以降は1本も映画を撮っていないという人物。初めての演技ということで、『戦場のメリークリスマス』の坂本龍一の演技と同様のぎこちなさは否めないものの、ウディ・アレンと同じようなバケット・ハットを被ってマスコミの取材攻めをかわす姿や、『アパートの鍵貸します』のジャック・レモンを思わせる都市生活者の気ままな生活ぶりは、映画好きとしても知られる高橋幸宏らしい個性がにじみ出ている。
先述のサウンドトラックにも収録されている主題歌「四月の魚 POISSON D’AVRIL」は、フランスのシンガー・ソングライターで俳優でもあるピエール・バルーとの共作。歌詞は高橋幸宏による日本語詞のパートとピエール・バルーによるフランス語詞が混ざり合っているが、YMOの英語曲で作詞と発音の指導をしていたピーター・バラカンがここでも発音を指導している(彼はフランス語の発音もわかる)。
俳優としての高橋幸宏について見てみると、その後は2006年の『男はソレを我慢できない』や2009年の『20世紀少年<最終章>ぼくらの旗』、2010年の『ノルウェイの森』などに端役として出演している程度だが、大林監督の遺作にあたる2020年の『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』になかなか味わい深い役どころで出演している。俳優・高橋幸宏としてもこの作品は遺作にあたり、お互いのキャリアの終点で再びコラボレーションが実現したことになる。
映画音楽家としては、椎名誠監督作品を担当
映画音楽家としての活動を見ると、坂本龍一や細野晴臣に比べて作品数は少なく、作家・椎名誠による監督作品への参加にほとんど限られている。1990年の『ガクの冒険』、1991年の『うみ・そら・さんごのいいつたえ』、1993年の『あひるのうたがきこえてくるよ』、1997年の『しずかなあやしい午後に』は、いずれも打ち込みによる素朴なバックトラックにギターやパーカッションなどの生楽器がほどよく散りばめられた楽曲でまとめられており、80年代のテクノ路線のソロ作品と90年代の歌ものアコースティック路線のソロ作品の中間に位置するようなサウンドが今聴いても心地よい。
また、高橋幸宏は大の映画/映画音楽好きでもあり、先に触れた2006年のインタビューの中では好きな映画音楽としてバート・バカラックの『明日に向かって撃て!』、フランシス・レイの『さらば夏の日』『愛と死と』を挙げ、最近では「やっぱりハンス・ジマーの名前がどうしてもでちゃう」と語っている。21世紀以降は単独名義で映画音楽を手がけることはなかったが、その映画全般への知識と愛情を活かしたサウンドトラックをもういくつか聴いてみたかった……とファンとしては思う。(伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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