(…前編「好きなものを素直に好きと言えない現代日本の同調傾向に、真っ向から疑問投げかける」より続く)
【映画を聴く】『夜明け告げるルーのうた』後編
下田翔大にしか出せない切実さと不安定さも生々しい
カイは退屈しのぎにPC上で音楽を作り、それを匿名で投稿サイトにアップしている。そのセンスの良さは誰が聴いても明らかなのに、バンドをやろうと持ちかけるクラスメートの誘いにもそれほど積極的ではない。そんなカイの日常が、人魚のルーの登場によって大きく変わることに。カイは音楽が鳴っている間だけ足が生えて踊ることができるルーと、音楽で心を通わせるようになる。
『思い出のマーニー』などの音楽を手がけてきた村松宗継による劇中音楽は、木村絵里子によるサウンドデザインを得て、ミュージカル・アニメとしての魅力を本作に与えている。バンドの演奏シーンやダンスシーンは、Flashアニメの特性も相まって本格的だ。かつて湯浅監督は、映画『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』で大滝詠一の楽曲(「1969年のドラッグ・レース」)が使われるパートの作画と演出を担当したことがあったが、その作風と音楽の相性の良さは本作でも変わらない。
また、この「歌うたいのバラッド」には冒頭、「唄うことは難しいことじゃない/ただ声に身をまかせ 頭の中をからっぽにするだけ」という歌詞がある。あるインタビューで湯浅監督は本作の水泳シーンに触れて「人間は不思議な生き物で、“沈む”と思って身を硬くすると沈むし、“浮く”と思って気を楽にすると浮く」と語り、この曲との共通性を指摘している。これほど必然的で幸せな物語と歌の出会いは、そうあるものではない。(文:伊藤隆剛/ライター)
『夜明け告げるルーのうた』は5月19日より公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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