初来日で「ギーク魂に火がついた」と大喜び
【この俳優に注目】先日、監督も務める主演作『クリード 過去の逆襲』(5月26日公開)を引っ提げて初来日したマイケル・B・ジョーダン。日本のアニメの大ファンとして知られる彼は、ジャパンプレミアのイベントが行われた後楽園ホールがお気に入り作「はじめの一歩」の舞台だと聞いて、「ギーク魂に火がついた。光栄です」と語った。
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丁寧なファンサービスと謙虚で気さくな人柄で一気にファンを増やしたジョーダンが『ロッキー』シリーズのスピンオフである『クリード』シリーズで主人公アドニス・クリードを演じるのは3度目だ。ボクサーとして成功を収め、最愛の女性と家庭を築いたアドニスを演じることに加えて製作と監督という重責も担った今作で、とにかく驚かされたのはジョーダンの監督としての力量だ。
兄弟同然に過ごした幼馴染デイムが長い刑期を終えて出所し、アドニスが封印してきた過去が明らかになる。そこから、赦しや家族、男らしさという呪縛といった要素にも斬り込んでいく物語だ。スポーツ映画として初のIMAXカメラを導入したファイト・シーンの斬新かつダイナミックな表現、そしてアドニスとデイムの愛憎半ばする関係性や家族の繊細なドラマ。デビュー作とは思えない見事な手腕はどのように培われたのだろうか。
キアヌ・リーヴス主演作『陽だまりのグラウンド』に出演
ジョーダンは1987年2月9日、カリフォルニア州に生まれた。「B」はミドルネーム「バカリ」の略。バカリとはスワヒリ語で“崇高な約束”を意味する。ニュージャージー州で育ち、1990年代後半にキッズモデルの仕事を始めた後、子役としてTVシリーズ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』などに出演し、最初の映画出演は2001年、キアヌ・リーヴスが少年野球のコーチ役を演じた『陽だまりのグラウンド』。ジョーダンは年齢制限でチームを辞めざるを得なくなった14歳の少年を演じた。
最初のブレイクは翌2002年に出演したTVシリーズ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』で、麻薬取引に手を染めて悲劇に巻き込まれる少年役で注目を集めた。
2009年には高校のアメリカンフットボール・チームを描く『Friday Night Ligths(原題)』でクォーターバックの選手を演じ、この頃から将来有望な若手俳優として名前を挙げられるようになっていった。
『フルートベール駅で』での演技が賞賛され、監督とは盟友に
大きな転機が訪れたのは2013年、インディーズ映画『フルートベール駅で』に主演した時だ。2009年にカリフォルニア州で起きた若い黒人男性射殺事件の実話の映画化で、ジョーダンは電車内で白人男性に絡まれた挙句に駆けつけた警察官に銃撃されて亡くなったオスカー・グラント三世を演じた。
親しみやすさとカリスマ性を備えた存在感と演技力で、若き日のデンゼル・ワシントンを重ねる賞賛が寄せられ、「TIME」誌で“世界を変える30歳以下の30人”の1人に選ばれるなど、時の人となった。そんな彼が名声と同時に得たもの、それはその後も共に邁進する盟友となったライアン・クーグラー監督だ。
初対面の際、監督が同世代という若さ(クーグラーは1986年生まれ)に驚くと同時に、クーグラーから「君にだってできる」と背中を押されたことから、ジョーダンは自分も映画を監督する可能性を考えるようになったという。
『クリード チャンプを継ぐ男』でさらに飛躍
2人は続けてシリーズ第1作となった『クリード チャンプを継ぐ男』(15年)に臨む。製作費90万ドルだった『フルートベール駅で』から3500万ドルという大作への挑戦だったが、彼らは期待以上の快作を生み出した。
『~チャンプを継ぐ男』の成功を受けて、クーグラーはマーベルで『ブラックパンサー』(18年)を手がけることになり、主人公と対立するエリック・キルモンガー役にジョーダンを起用した。キルモンガーはいわゆるヴィランだが、多くの葛藤を抱えた複雑な人物像は観客の共感を誘い、ジョーダンの人気はさらに高まった。
2018年、ジョーダンは自身のプロダクション「Outlier Society」を設立し、『華氏451』や『黒い司法 0%からの奇跡』などアクションというジャンルに留まらない自身の主演作を中心に製作している。
『ドラゴンボールZ』など日本のアニメから影響を受けたと語る
10代の頃から数々の優れた撮影現場で多くを吸収してきた彼のもう1つのインスピレーションが日本のアニメだ。『クリード 炎の宿敵』(19年)のトレーニング・シーンについて『ドラゴンボールZ』の一場面を例に解説したり、『~過去の逆襲』のクライマックスの対決は少年時代から大ファンだという『NARUTO-ナルト-疾風伝』のナルトとサスケにインスパイアされたと語る。
来日時、「自分にとってのアニメの魅力はストーリーテリングで、そこに描かれているハートが本当に好きです」とコメントしたが、アニメの視点をどれだけ実写で表現できるかに挑んだ演出は、監督としての個性となった。
ゲームとエンターテインメントのサイト「Polygon.com」のインタビューでは、アドニスとデイムの関係について「『鋼の錬金術師』は確実にその1つ。『ドラゴンボールZ』の悟空とベジータ、『僕のヒーローアカデミア』の爆豪と緑谷。これらはほんの一部です」と、まさにギーク魂全開で語っている。
BLM運動では抗議デモに参加、社会へのメッセージも発信
そして彼はエンターテインメントを通して、社会にメッセージを投げかけることも忘れない。第90回アカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドがスピーチで「インクルージョン・ライダー(Inclusion rider/包摂条項)」という言葉を用いて、撮影現場における包摂性(inclusion)の確保を呼びかけた後、すぐに行動を起こしたのも彼だ。
「Outlier Society」で製作するすべてのプロジェクトに包摂条項(スタッフ、キャストに女性や非白人を少なくとも半数含める)を適用すると宣言し、彼の主演作『黒い司法 0%からの奇跡』はワーナー・ブラザースにおいて初の包摂条項導入作品となった。2020年に全米でブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動が起きた際にはジョーダンもハリウッドで抗議デモに参加し、スピーチで黒人の雇用を訴えた。
『クリード』シリーズでアドニスの妻ビアンカ、2人の娘であるアマーラは聴覚障害があり、家族は手話でコミュニケーションを取っている。ビアンカを演じるテッサ・トンプソンは健聴者だが、『~過去の逆襲』でアマーラを演じるミラ・デイヴィス・ケントは聴覚障害を持つ10歳の新人だ。当事者が演じるという包摂性を実践している。
ちなみに日本では昨年、聴覚障害を持つ女性ボクサーを描く『ケイコ 目を澄ませて』が公開されたが、今回の来日でジョーダンは主人公のモデルとなった小笠原恵子さんとも対面した。(https://twitter.com/warnerjp/status/1659089515531862016)
昨年、『~過去の逆襲』のオンライン記者会見で「ただカメラの前にいるだけでなく、誰かのヴィジョンを実行するだけではない形で、ストーリーを伝えたいと思うようになった」と語った。
「35歳になって、若い黒人男性として、言いたいことが沢山あった。このキャラクターとストーリーを通して、人生経験や自分自身の一部をどう世界に伝えるか、共有することができるのか。今がその時だと思った」という言葉を実現してみせた彼は、今後も主演作『ウィズアウト・リモース』(21年)の続編『Rainbow Six(原題)』(監督は『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ)やライアン・クーグラー監督との新たなコラボレーション『Wrong Answer(原題)』といった企画が控えている。(文:冨永由紀/映画ライター)
・来日イベントで満面の笑みを見せるマイケル・B・ジョーダンなど、その他の写真はこちら!
『クリード 過去の逆襲』は、2023年5月26日より全国公開。IMAX(R)/Dolby Cinema(R)/4D同時公開。
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