ネットフリックスが製作したオリジナル映画で、ポン・ジュノ監督作『オクジャ/okja』が6月28日から全世界で同時配信されるが、カンヌ映画祭で論争の的となった。『オクジャ』はコンペティション部門に選出され、動画配信サービスが手がけたオリジナル映画で初の快挙となった(ネットフリックス製作の映画では『マイヤーウィッツ ストーリーズ』もコンペ部門に選出)。
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だが、これに対しフランスの映画興行界が強く反発。フランスでは「映画の動画配信は劇場公開開始から36ヵ月後」とする規定がある。だが、ネットフリックスのオリジナル映画は劇場公開と同時、もしくは公開を経ずに全世界に同時にネット配信を行う。しかもコンペ部門に選出された2本はフランスでの劇場公開が決まっていなかった。
結局、映画祭事務局ではコンペ部門のルールを改正。来年からコンペ作はすべてフランスでの劇場公開が義務付けられる。これに対し、ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEOは「既存体制の閉鎖的な順位付けは我々に不利だ」とフェイスブックで反論した。
オリジナル映画の製作に力を入れる動画配信サービスにはアマゾンもあるが、こちらは映画界の支持を集めている。昨年のカンヌ映画祭ではアマゾンが製作に携わったウディ・アレン監督作『カフェ・ソサエティ』がオープニング作品として上映。今年のアカデミー賞では同じくアマゾン作品の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が作品賞などにノミネートされ、司会者がオープニングトークで「おめでとうございます」とわざわざコメントした。アマゾンは映画をまず劇場で公開し、一定期間をあけてから配信する。映画興行に対する姿勢の違いがアマゾンに好意的になっている理由だろう。
プランBの共同社長のジェレミー・クライナーは「伝えたい物語があっても既存のビジネスモデルでは生み出すことができないこともある。今回はネットフリックスが前に出てくれて、我々が伝えたい物語に許可を出してくれた。従来のような映画館での配給をするものもあれば、ネットフリックスもある。A24、アンナプルナ、パラマウント。作品ごとにふさわしい形を取ります」と話している。
A24は『ムーンライト』をプランBが共同で製作、配給も担当したインディーズ系映画会社、アンナプルナは『アメリカン・ハッスル』『her 世界でひとつの彼女』などで知られるインディーズ系映画会社で最近プランBが提携を結んだ。パラマウントは大手スタジオのひとつで、『ワールド・ウォーZ』『マネーショート 華麗なる大逆転』をプランBが共同で製作、配給も担当した。
大手スタジオは単純明快なアクション映画やドラマ映画に巨額の資金を投入するが、大人向けの社会派ドラマや、深みはあるが分かりづらい人間ドラマは避ける傾向にある。一方、大手スタジオが避けるチャレンジングな企画はインディペンデント系映画会社が担い手となり、作り手に自由を与えて製作にあたる。プランBでは作品のタイプによって組む相手を変える戦略だ。
では、ネットフリックスはどんな作品で組みやすいのか。スタジオではやりづらい作家性の強い題材だが、インディーズと組むには予算が大きい作品がネットフリックス向きとみられる。ネットフリックスはインディーズより資金があるからだ。
ネットフリックスの配信システムも製作者には魅力だ。ネットフリックスのオリジナル映画は映画館での公開と同時、もしくは公開を経ずに全世界に同時にネット配信を行う。製作する側にとって、劇場公開したからといって収入が増えるとは限らない。通常、映画館での収入の半分が配給会社の収入となり、その収入から宣伝費や手数料を引かれて残った分しか製作側に回らない。劇場公開がリスクになることもあり、作品のタイプによってはネットフリックスが最大限の収入を生む可能性が出てくる。
ネットフリックスとアマゾンは今後も映画界での論争を巻き起こしながら、オリジナル映画の製作を進めていくことだろう。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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