「面倒くさいヤツ」と思われることへの恐怖を打ち破ったのは、誰かのために、という気持ち

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SAORI

【日本映画界の問題点を探る/映像業界で働く女性たちの挑戦 3】労働環境をはじめ、映像業界の様々な問題点を改善していきたいと思うようになったSAORI。業界の問題点を改善するためには労働組合を作るという方法もあるが、自身も含め、組合という存在には抵抗を持つ人が多いのではないかという懸念が強かった。どうしたらいいのかわからずにいたところ、友人の勧めもあってNPO法人を設立する決意を固める。2018年頃から準備に取り掛かり、2020年1月に「映画業界で働く女性を守る会」が誕生。最近はさまざまなメディアから取材を受けたり、東京国際映画祭で行われた日本映画監督協会主催のシンポジウムに登壇したりと認知度の高まりと共に活動の幅も広げている。とはいえ、映像業界のように“閉ざされた世界”では、新しいことをしようとすると出る杭を打とうとする人が現れることが多いが、そこに対する怖さはなかったのだろうか。

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長すぎる拘束時間、改訂後の基準でも13時間!「10時間にしておくべきだった」

「面倒くさいヤツだなと思われたらおそらく仕事は無くなりますし、そういう恐怖もあったと思います。でも、私の場合は出産によってすでに仕事は減っていたので、だったら面倒くさいと思われようが、後輩や誰かのためになるんだったらそういうことを1つくらいしてもいいのかなと。それに、私は映像業界や全員の意識を変えるつもりはありません。そのままでいい人は、そこで続けていけばいいと思っています。どちらかというと、いまの私がしたいのは『働きやすい新しい世界を作る』というイメージです。もし、それが本当によければ、ほかの方もきっとこちらに来てくれると考えています」

SAORIが思い描く理想の新しい世界を作るうえで、まず見直す必要があるのは、労働時間の長さ。これに関しては、ムビコレでもたびたび触れており、過去の取材対象者の大半からも同様の苦言が呈されている。2023年4月1日から日本映画制作適正化機構(映適)による新たなガイドラインが作成されたが、これに対しても賛否両論が上がっているところだ。

「映適では準備と撮影を含む1日の撮影時間を13時間までとしていますが、私はそれでも長いのではと思っています。せめて12時間、個人的には10時間でも良いと考えているくらいです。ただ、13時間でも良しとしているあたりに、いまがどれだけひどい状況なのかがおわかりいただけるかなと。しかも、海外の場合だと決められた時間以内に終わることがよくあるそうですが、日本だと時間きっちりまで使おうとするはずなので、そういう意味でも10時間としておくべきだったのではないかと感じています。この時間を設定したのは、これまで映画業界で長くやってこられた方々だとは思いますが、いま現場にいる人、そしてこれからの業界を支える若いスタッフなどの当事者の声をもっと聞いてほしいです。映画の現場では、1人の仕事量が2人分やそれ以上になることも多く、みんながただただ疲弊しているような状態。負の連鎖を断ち切る意味でも、事前に決まった休みを設けることも大事かなと。それがあるだけで心に余裕ができて人にも優しくできるので、現場で誰かが怒鳴ったりすることも減るのではないかと考えています」

長時間労働を強いられる原因のひとつと言われているのは、予算不足。しかし、ただ予算が増えるだけでは解決しないと鋭い指摘をする。

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大作映画でも長時間労働や無給状態は普通、上層部は改善する気がある?

「もちろん予算の問題は大きいですが、最近活動するなかで思うようになったのは、みんな予算のせいにしすぎだということ。特に、監督だったり、お金を集める立場のプロデューサーの方が「お金があったらやるけど…」と仰ることがあるのですが、そもそも『お金があるから土日休みにしよう』とか『早く終わりにしよう』という発想になる人はいないように感じています。というのも、現時点でどの部署も予算が足りていないので、経費削減をしていろんなことを我慢しているような状態。もし予算が増えたら、まずは作品のクオリティを上げるほうに使いたいと思うはずですよね。そう考えると、上の人たちは本当に改善する気があるのかなと。過去に“大作”と呼ばれる作品に参加したこともありますが、そこでも長時間労働や無休状態は普通だったので、『予算があっても、労働環境改善に使おうとしてくれるプロデューサーや監督がいるのかな?』と思ってしまいます」

そして、もうひとつ深刻な問題といえば、あらゆるハラスメント行為。近年は、多くの現場でハラスメント講習が行われており、徐々に改善されつつあるとはいうが、これからも本気で取り組み続ける必要はある。

「映画の現場というのは、普通の会社と違って、その撮影期間が終わればチームは解散するので、『撮影さえ終了すればハラスメント行為から逃れられる』とか『今後は二度とその人からの仕事を受けなければ良い』と考えて被害者が我慢してしまうことがあります。だから、いつまでも変わらないのですが、どんなに予算がない現場でも、セクハラやパワハラをしないというのは0円でできること。一緒に働く相手に対して、きちんとリスペクトを持つようにしてほしいです。私が若い頃には『セクハラもうまくかわせるようになって1人前』みたいなことを言ってくる先輩もいたので、いまだにそういう感覚の人もいるかもしれません。あと、作品が行うハラスメント講習や勉強会では、する側に向けての注意点を話すものが多い印象ですが、される側の目線に立った内容も入れてもらえるといいなと考えています」

そしてインタビューの最後には、SAORIが始めた新たな取り組みやフリーランスとしての心得についても教えてもらった。(text:志村昌美

・【映像業界で働く女性たちの挑戦 4/ギャラや仕事内容を検討しただけで「不義理なヤツ」と非難〜】に続く(2023年6月2日掲載予定)

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