【日本映画界の問題点を探る/映像業界で働く女性たちの挑戦 4】SAORI が中心となって立ち上げた「swfi(映画業界で働く女性を守る会)」では、相談窓口や実態調査など、映像業界をよくするためのさまざまな活動を積極的に行っている。そのなかで主に掲げているのは、「ハラスメントや契約課題のサポート」「仕事も子どももあきらめないですむ世界」「持続可能な映像業界をつくっていく」の3つだ。それらを浸透させるために、swfiでは啓発活動に力を入れている。
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若い人が業界に染まってしまう前に意識を変えていくことが大切
「働き始めて3年以内の人がオンライン談話室に来て、自分の働き方に疑問を持っていると相談をしてくれることがありますが、若い人こそ業界に染まってしまう前に意識を変えていくことが大切だと考えています。たとえば、映像業界では『1日でも早く連絡をもらった人の仕事をありがたく受けるべき』という慣習的な考えがありますが、フリーランスであるならば、本来は条件を比較検討して良い条件の仕事を受けてもいいはずですよね。にもかかわらず、『あいつは後から来た仕事をギャラがいいから受けた不義理なヤツだ』というようなことをいまだに言う人もいます。実は、私も昔はずっとそういうふうに思い込んでいましたが、最近はギャラや内容を含めて考えたうえで決めるようになりました」
そのほかにも、映像業界では契約書がないことが大半のため、あとからトラブルに発展してしまうこともある。しかし、フリーランスである以上、自分の身は自分で守るしかない。そこで、swfiでは「フリーランスで仕事を受ける際の心得カード」を作成。「条件を事前に確認」「やりとりは記録に残す」「本当にやりたい仕事か考える」といった特に気を付けなければいけない項目をわかりやすく説明しており、さらに裏面ではストレス簡易チェックができるようにも工夫されている。
現在は自分たちで配布したり、知り合いの現場に設置してもらったりするなどして意識改革を地道に広めているところだというが、忙しすぎて忘れがちな小さな気づきを与え続けることによって、多くの人が救われるはずだ。「働きやすい新しい世界を作りたい」と語っているSAORIは、画期的な企画にも挑戦しようとしている。
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「そんなの無理」は本当? 何が無理なのかを実験したい
「今年中を目標に動き出したいと考えているところですが、労働環境がいいとされる状態で映像作品を作りたいと思っています。そういう話をすると、『そんなの無理だよ』と言う方もいるんですが、私は何が無理で何が意外と無理ではないのかを実験したいなと。ただ、『スタッフが全員女性』とか『子どもがいる人だけにする』とか『9時~17時だけで撮影を行う』 みたいに特殊過ぎる環境にするとプロトタイプとして見てもらえなくなってしまうので、そうするつもりはありません。あくまでも、幅広い人たちに参加していただいたうえで、決められた1日の労働時間内にどういう解決方法があるのかを探っていきたいです。そういった企画なので、普段は映画に出資をしていない企業でも、女性の働き方に興味があるようなところには声をかけていき、業界の外部ともつながりを持ちたいと思っています」
本作を制作する場合は、現場に舞台裏を記録する別のカメラを入れて、同時にドキュメンタリーも作りたいと話す。この企画がうまく成功すれば、SAORIが目指す新たな世界が誕生するのも、そう遠い未来ではないだろう。
「以前、打ち上げに子どもを連れていったことがあったのですが、そのときにほかの女性スタッフが『子どもをあきらめなくてもいいんだ』と言っていると聞いたことがありました。子どもを持つ持たないはそれぞれの自由です。けれど、若い子たちが子どもを持ちたいと思った時には、当たり前のこととして子どもが持てる世界であってほしいと考えています。そのためにも、まずは子どもの有無に関わらず女性が働きやすい環境にしていくことが第一。そして、いま問題となっていることがクリアになれば、結果的には女性だけでなく、あらゆるジェンダーの方が働きやすい業界になるはずです。残念なことに、まだ『安心して入ってきてください』と言えないので心苦しいのですが、いま少しずついろんな人が声を上げて変わりつつある時期なので、あきらめずにいていただけたらと。swfiもたくさん発信し続けていくので、みなさんも知識をに身につけて自分を守るところから始めていただけたらと思います」
これだけ多くの問題が次々と取り上げられると、映像業界に対してネガティブな印象を持つ若者たちも多いかもしれない。しかし、いままで表にも出てきていなかったことを考えると、表面化していることは改善へと向かっている証のようにも感じられる。業界全体にとって危機的状況でもあるが、このピンチをチャンスに変えられれば、新たな人材確保とともに活気を取り戻すこともできるはずだ。swfiには、その革命を後押しする大きな力として、これからも期待したい。(text:志村昌美)
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