父のライブを見て芸能に興味を持ち、役者の道へ
【この俳優に注目】インタビュー取材というのは普通の会話と違って、話すテーマは互いに了解済みだ。彼らが作った映画やドラマなど作品について語ってもらうのが中心になる。そこから話題が広がっていくのが面白い。ただ、限られた取材時間の中でこちらはつい、うまくまとめようとしてしまう。そんな時に妥協せず、自分の伝えるべきことを守る人がいる。今まで2度取材させてもらった宮沢氷魚もそんな人だ。
・R15のバイオレンス映画を初体験!『グッバイ・クルエル・ワールド』宮沢氷魚インタビュー
1994年4月24日、アメリカのサンフランシスコで日本人の父親と日本とアメリカ、アイルランドの血を引く母親の間に生まれ、東京で育った。幼い頃からミュージシャンの父、ラジオやTVで活躍する母の仕事場に足を運ぶこともあったが、芸能界に入ったのはアメリカで大学生活を送っていた20歳の時だったという。
10代の頃に父のライブで観客が熱狂するのを見て、「パフォーマーとは多くの人をハッピーにする力を持っていることに気づいた」という。その時から芸能の仕事に興味を持ったが、彼が目指したのは音楽よりも演ずること。
自ら履歴書を送った事務所に所属し、最初はモデルとして「MEN’S NON-NO」誌専属で活動するうちにTVドラマのプロデューサーの目にとまり、2017年にTBS系のドラマ『コウノドリ』で俳優デビューする。その後は順調にドラマや映画、舞台にも活躍の場を広げていった。
『his』『エゴイスト』でゲイの青年を演じて注目を集める
筆者が最初に彼を取材したのは初主演作の『his』(19年)の時だった。同性愛者であることを隠して生きる青年の葛藤を演じ、「この映画が公開されて、それで現状を変えるとか大勢の人を救うかと言われたら、正直分からないですが、LGBTQであったり、家族や愛のことを考えるきっかけになってくれれば僕たちは報われる」と語った。
その後に出演したドラマ『星とレモンの部屋』(NHK)では引きこもりの青年、今年2月公開の映画『エゴイスト』でもゲイの青年を演じた。彼がいわゆるマイノリティとカテゴライズされる役を演じる機会が多いことには、出演作のストーリーを介して、少数派とされる人々の現実に光を当てたいという意思を感じる。
『はざまに生きる、春』ではアスペルガー症候群の画家を演じる
最新主演作『はざまに生きる、春』で彼が演じるのはアスペルガー症候群の画家、屋内透だ。仕事も私生活も行き詰まっている雑誌編集者の女性・小向春が取材で出会う「青い絵しか描かない」画家の透は、思ったことをそのまま口にし、行動する。発達障害の特性だが、相手の気持ちや場の空気を読んでばかりの春は彼の純粋さに新鮮な驚きを覚える。春は日本社会の多数派を象徴していて、透に惹かれていく彼女の心の動きには観客の多くに自省を促すものがある。
この作品は、宮沢氷魚に当て書きした複数の脚本の中から彼自身が最終的に選んだものだという。脚本・監督を務め、本作で商業映画デビューを果たした葛里華とともに発達障害の人々に取材を重ね、医療監修者たちのアドバイスも受けて役に臨んだ。そんな彼が演じる透は、いわゆる健常者にとって“都合のいい障害者”像とは異なる。誰もが1人1人違うという当たり前の前提を透という役でも実践し、好きなものは好きというシンプルな透の心を宮沢はまっすぐに演じた。
舞台『パラサイト』に出演、海外作品への挑戦にも意欲
できる限り学び、それを嘘のない形で誠実に伝える努力を惜しまない人。同時に、それを受け取る他者の意見にもまずは耳を傾けるオープンな人。だが、安易に迎合はしない。謙虚だが、必要以上に卑下せずに自分を語ることができる。
6月からは、非英語作品として史上初の作品賞などアカデミー賞4部門を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の舞台化作品『パラサイト』に出演する。彼が演じるのは、裕福な一家に家庭教師として入り込む青年だ。1990年代の大阪が舞台の物語で、また新たな一面を見せてくれるに違いない。
日本語と英語のバイリンガルであり、本人も海外の作品への挑戦に意欲を示している。健やかな自信と、伝える責任感を持つ宮沢氷魚のこれからが楽しみだ。
(文:冨永由紀/映画ライター)
『はざまに生きる、春』は、2023年5月26日より公開中。
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