【週末シネマ】『オクジャ/okja』
5月に開催されたカンヌ国際映画祭でNetflix出資の映画2本がコンペティション部門にされた。ところが、この2本はフランス国内ではオンライン配信のみで劇場公開なしという事態を受けて、審査員長のペドロ・アルモドバルが「大画面で見られない映画に賞が与えられるのは想像できない」と発言、大きな論争を呼んだが、対象となった2本のうち1本が韓国のポン・ジュノ監督の『オクジャ/okja』だ。
ブラッド・ピットの「プランB」が製作を手がけた同作は、『殺人の記憶』(03)、『グエムル-漢江の怪物-』(06)、『母なる証明』(09)で知られるポン・ジュノ監督の最新作であり、サスペンス、アクション、ファンタジー、ドラマ……とこれまで彼が作ってきた傑作の集大成のようでもある。
舞台は近未来なのか、この世のパラレルワールドなのか。少女と謎の巨大生物が主人公の本作は、様々なテーマが折り重なる豊かな物語だ。薄汚れた都市で、多国籍企業「ミランド・コーポレーション」のCEO、ルーシー・ミランドが“南米チリの牧場で発見した”新種「スーパーピッグ」のプレゼンをしているところから物語は始まる。世界の食糧危機対策として、多国籍企業「ミランド・コーポレーション」は世界各地の農家にこの新種を飼育させ、最も大きく育てた農家を表彰するキャンペーンを打ち出す。
それから10年後。韓国の緑深い山村に暮す少女ミジャが登場する。彼女の親友は、10年前から飼っているオクジャだ。豚とカバを合わせたような巨体のオクジャとミジャが大自然の中でのどかに暮らす様子が微笑ましく描写される。監督は『未来少年コナン』などの影響を言及しているが、確かに宮崎駿やジブリ作品に通じる生命力と無垢の輝きが、美しい自然と精巧なCGが調和する映像で生き生きと表現されている。そんなミジャとオクジャの楽園に現れるのが、テレビで人気の動物学者ジョニーだ。彼はミランド・コーポレーションの命を受け、オクジャをニューヨークに連れて行く。一緒に育った親友と無理やり引き離されたミジャは矢も盾もたまらず、オクジャを救おうと、たった1人で後を追う。
韓国・アメリカ・フランス合作の『スノーピアサー』のアメリカ公開をめぐって大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインと対立、苦い経験をしたポン監督はNetflixでの映画作りについて「大きな予算が与えられるのみならず、百パーセント創作の自由が与えられ、クリエティブをコントロールできる環境があります。既存のスタジオではなかなかできないことであり、多くのクリエイターにとって魅力的なことは確かです」と来日記者会見で語った。
創作においてはまさに理想的な環境だが、完成作の公開をめぐっては、劇場公開とオンライン配信は同日がポリシーのNetflixと映画館側の条件の折り合いがつかず、対立が続いている。
NetflixがプランBと組んだブラッド・ピット主演の『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』と同様に、リスクを恐れない大胆な物語を迫力の映像で畳みかける『オクジャokja』は大画面であればあるほど映える作品なだけに、鑑賞方法がオンライン配信に限られるのはもったいない。大勢の観客が大きなスクリーンを共有し合って生まれる空気も、この映画には本来欠かせないもののように思える。(文:冨永由紀/映画ライター)
『オクジャ/okja』は6月29日よりNetflixにて全世界同時配信される。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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