【ついついママ目線】『散歩する侵略者』前編
夫の異常行動に「ちゃんとして!」で済ます妻にオンナを見た
ラブコメ、アクション、ホラー……。どんな映画でも、ついつい“子育て”に結びつけて見てしまうママさんライターが、話題作をママ目線で紹介! 今回はちょっと子どもから離れ、夫婦関係について考えます。
子育てにおいて、夫婦の連携は大切だと思う。例えば子どもに注意するとき、どういう点を注意するのか、どこまで良しとしてどこから叱るのか、どのように叱るのか、夫婦で議論となることがある。
・世界の終わりか愛か? 黒沢清監督が語る新たな挑戦!/黒沢清監督インタビュー
ただ、「では、ここをボーダーラインとして、この方法で注意しよう」と冷静にキレイに収まることはまずない。「これぐらいのことでも俺は親から叩かれて教え込まれてきたんだ!」「いや、それが子どもにとってプラスになると思えない!」と言い合いにもつれ込むこともしばしば。
話は収束せずに、どうしてそういう考え方をするんだろう?と思う。折り合うために理解しようと努力しても、異なる環境で育ってきて異なる人格を形成してきた者同士なのだから、なかなか理解し合うのは難しい。
環境うんぬんという以前に、だいたい男と女では考え方が違うと感じることも多い。考え方いうか感じ方というか、生物としてというべきか、根本的に違っていると思うのだ。
改めて、そう思わせられたのは黒沢清監督の『散歩する侵略者』を見たときだ。メインとなる夫婦の妻、鳴海を見ていると、「ああ、オンナってこうだよな」と思ってしまった。
『散歩する侵略者』は、「太陽」も映画化された劇団イキウメの人気舞台の映画化だ。タイトルからもなんとなく窺いしれるように、日常に潜む異質を得体の知れない不気味さと紙一重の滑稽さで描き、オリジナル作品ではないが非常に黒沢清監督らしい作品に仕上げっている。黒沢清監督の『カリスマ』が好きな筆者としては、黒沢監督らしさが健在で嬉しく感じた。
でも、『散歩する侵略者』は『カリスマ』ほどヘンテコで難解ではない。物語はシンプルで、主人公・鳴海の行方不明だった夫・真治が別人のようになって帰ってきて、地球を侵略しに来たと言い、町ではじわじわと異変が起きていくのだ。アウトラインとしてはよくあるインベイダーものだろう。ただ、黒沢監督だけに、そんじょそこらのジャンルムービーとはひと味もふた味も違う。
主人公の鳴海は日常的にとても身近な存在である夫の真治が数日の行方不明の後に姿を現すと、今までとは人が変わったようになっていることに気づく。それも、ちょっと性格的にいつもと違う、というレベルではない。確かに性格的にもおそらく以前より素直で穏やかにもなったようだが、そういう話じゃなくて、真治は雑誌は逆さまにして読むし、歩こうとしても足がもつれてまともに歩けない有り様なのだ。
普通なら「え? なに? この人どうしたの?」と怖くなったり、脳神経は大丈夫かしらと心配になったりするところだが、この鳴海はそうはならない。
彼女はイラッとするのだ。イラッとして、まるで、調理器具をトンチンカンな使い方したり、靴下を脱ぎっ放しにするダメ夫に言うように、ちゃんとしてよ!と叱りつけて強引に正して、それで終わりだだ。
・【ついついママ目線】『散歩する侵略者』後編/愛してくれれば全てOK? 長澤まさみのオンナ脳を全否定できない。
『散歩する侵略者』は公開中。
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