・【映画を聴く】『ダンケルク』前編/ハンス・ジマーの斬新な音作りも後押し!“知る”よりも“感じる”エンターテインメント!
【映画を聴く】『ダンケルク』後編
“知ること”よりも“感じること”に重きを置いたノーラン監督の意図は、前編の冒頭でも触れたように、ハンス・ジマーの音楽にも色濃く反映されている。ジマーはノーラン監督の『ダーク・ナイト』三部作をはじめ、数多くのハリウッド大作の劇伴を手がけてきた作曲家。キャッチーなメロディメーカーというよりは、映像に忠実に寄り添ったオーケストレーションを地道に構築するタイプの人なので、作品によってはそれが物足りなさとかマンネリ感につながってしまうことがあるが、本作ではその資質がプラス方向に活かされている。
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ノーラン監督の提案により、英国人によく知られるエドワード・エルガー作曲『エニグマ変奏曲』の第9変奏「ニムロッド」を織り込むなどしたそのスコアは、前述のように秒針の刻むテンポともところどころで同期しながら、ひとつの壮大な組曲のように映像を彩る。見る者の記憶に焼きつくようなフレーズが用意されているわけではなく、音楽だけを聴けばそれほどインパクトはないものの、小刻みに反復されるチェロやヴァイオリンの音色は映像と分かち難く結びついており、その点ではジマーのキャリアハイと言っていい仕上がりである。
ちなみに秒針の音は、ジマーがノーラン監督の腕時計から採取したものだという。本編における陸・海・空の3つの視点は、それぞれ1週間・1日・1時間という違った時間の中で起きた出来事を描いているのだが、秒針の音はその3つの時間の流れを貫く通奏低音として機能している。ノーラン監督と長くコンビを組むリー・スミスによる編集の妙だけでなく、ジマーのこういった音作りにも多くの人が耳を傾けてほしいところだ。
『ダンケルク』は公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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