【元ネタ比較】映画『火花』前編
ドラマチック加味で観客に親切な設計
お笑い芸人・ピースの又吉直樹原作の芥川賞受賞作「火花」が映画化された。原作は累計部数300万部を突破し、2016年にNetflixでドラマ化され、そのドラマが2017年2月からNHKで放送され、今度は映画化だ。
・TVドラマとは全然違う! 視聴者への信頼を実感したNetflixドラマ『火花』
売れるものはとことん使う商魂たくましい吉本興業らしいな、と思う。踊らされているような気がするのは癪にさわるが、小説で号泣しドラマで泣いた筆者は、映画でもまた涙してしまった。
個人的には、原作に勝るとは言い難いが、原作は万人受けという意味では弱かった。それに比べてドラマはドラマとしての良さが味付けされており、映画は映画らしい見応えある作品として仕上がっていた。監督・脚本は俳優としても活躍し、『板尾創路の脱獄王』で長編監督デビューした芸人・板尾創路。自分が表現したいことを力技で全面に押し出そうとせず、いい意味で職人監督として腕を上げたと感じた。
映画版は原作と同じく熱海の花火大会のシーンから始まり、余興の舞台の漫才は白けていてウケる気配はない、やるせない物語の幕開けだ。原作では花火という単純でいて華やかなイベントの主役に音も迫力も気圧されて、漫才師の主人公たちは花火客に「そこに居る」ということを認めてもらうことすら難しいという虚しさを感じさせる場面。そんななか神谷は徳永に「仇とったるわ」と言い放ち、この状況にめげずに抵抗していく。
かたや映画版は花火もさることながら、町のチンピラたちが野次を飛ばし、神谷は彼らに食い下がっていく。余興舞台の状況と主人公の心情が原作では丁寧に語られ、ドラマ版でもそんな会場の空気を描いていた。
しかし、全10話からなるドラマと違って2時間に収める1本の映画では、どうやらわかりやすくドラマチックな演出を加味していこうという考えらしい。導入から示唆されて「ほほう、そういう方向性なのね」と入って行きやすく、見るものに親切な設計だ。
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