もがき苦しむ元受刑者…社会復帰困難な日本のリアルに『福田村事件』の森達也監督「胃が痛くなる」『過去負う者』予告編

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『過去負う者』
『過去負う者』
『過去負う者』

被害者家族の本音は「更生の支援をしてくれって…私は許せません」

セクシャルハラスメント事件をモチーフにした『ある職場』(22年)の舩橋淳監督が、「ドキュメンタリー×ドラマ」の手法で現代社会の暗部に迫る最新作『過去負う者』。本作より、加害者と被害者の本音がぶつかり合う本予告編を紹介する。

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本作は、受刑者の就労支援をしている実在の就職情報誌の活動にヒントを得て制作された劇映画。現在、日本では1年間に約2万2000人の出所・出院者が存在する。だが、刑務所満期出所者は社会復帰に必要な就労が困難なため、5年以内に再犯して再び入所する確率が約50%と世界的に見ても高い。この数字は、日本では「一度、道を踏み誤ってしまうと、二度と生き直すことができない社会である」ことを物語る。

かねてよりドキュメンタリーとフィクションを往復して制作を続けてきた舩橋監督は、加害者が罪を償い続けることは当然のこととしながらも、社会が元受刑者をすべて排除してしまうと、結局、再犯者を増やしてしまう可能性を危惧。「出所者を支える人々と、それを受け止める社会のあり方」を議論する題材として、本作を作り上げた。

受刑者向けの就職情報誌「CHANGE」編集チームは、出所者の就職あっせんと更生支援をしていた。チームのひとり藤村は、ひき逃げによる殺人罪で10年服役した田中を担当し、中華料理屋に就職させたもののキレやすい性格でトラブル続き。女子児童へのわいせつ行為により2年服役した元教師・三隅は、職に就いたとたんすぐ消息を絶ち、チームを落胆させる。薬物常習で2年服役後出所した森は、清掃会社で働くものの、⻑年続くコミュニケーション障害でなかなか社会にフィットできない。

社会復帰に向けてもがき苦しむ元受刑者を目の当たりにした藤村らは、アメリカの演劇による心理療法・ドラマセラピーを提案。元受刑者たちと稽古を重ね、舞台『ツミビト』を公演するまでに至るのだが…。舞台初日の観客の反応は、彼らにとって全くの予想外だった。

95秒の本予告編では、元受刑者のための就職情報誌「CHANGE」編集部のスタッフたちが、ひき逃げや性犯罪、薬物使用という罪を犯した元受刑者たちの就労支援をする過程でぶつかる様々な困難を描き出す。中でも、ひき逃げによって我が子をなくした夫婦が、「加害者の更生の支援をしてくれって(と言われても)…(やっぱり)私は許せません」という本音と、それに対して「でも、この人たち(加害者)にだって、まだ何十年も人生があるんです」というスタッフの心の叫びとが描かれるシーンは、見るものを強く引き付ける。

このシーンも含め、本作では全編にわたって台本が存在しない。いずれもシチュエーションだけ設定され、その中で役者が各々の「心の底から出てきた言葉」で喋っているため、緊張感あふれるエピソードの数々に強烈な説得力をもたらしている。

また、大ヒット公開中『福田村事件』の森達也監督から推薦コメントが到着した。森監督は「胃が痛くなる。全員の言葉があまりにリアルで、虚構と現実が逆流する感覚に襲われる。テーマは重い。だからこそこの手法が功を奏している。稀有な映画体験と言っていいと思う」と言葉を寄せている。

『過去負う者』は10月7日より全国順次公開。

・[動画]元受刑者が社会復帰に向けてもがき苦しむ姿/映画『過去負う者』ティザー予告

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