ゲイリー・オールドマンと辻一弘の“共同作業”で完成した世紀の名演!

#ウィンストン・チャーチル#週末シネマ

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
(C)2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
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辻一弘

【週末シネマ】『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
女性映画を撮り続けたジョー・ライト監督
彼女たちの活躍もしっかり織り込む

第二次世界大戦中と戦後1951年から55年にかけて、2度イギリスの首相を務めたウィンストン・チャーチル。今なお多くの人々から最も尊敬するリーダーとしてその名が挙がる名宰相だが、最初の就任時は第二次世界大戦中でナチスが猛威を振るっていた1940年5月。国民に人気はあるが、度重なる失策で政党内では孤立した存在だったチャーチルが、イギリスへのドイツ軍侵攻の危機が高まるなか、首相に就任し、ダンケルクのダイナモ作戦決行までの27日間の“最も暗い時間(原題Darkest Hour)”を描く。

『ウィンストン・チャーチル~』ジョー・ライト監督インタビュー

朝からスコッチを飲みながら、アイディアを次々と打ち出していく型破りな政治家としての顔、長年連れ添う愛妻には頭が上がらない素顔、天性のチャームで国民の心を捉え、力強いリーダーシップを発揮するチャーチル像を描いたのはジョー・ライト監督。ヒトラー政権と交渉するか、断固戦うか。孤立しながらも自らの信念を曲げなかった政治家をしっかりと描きながら、愛妻クレメンティーンや彼の言葉を記録する若いタイピストなど、表に出ずともしっかりとした役割を担った女性の存在を忘れず描くのは、『偏見とプライド』や『つぐない』など女性を主役に映画を撮り続けてきた監督らしい。ウエストミンスター地区の様子を描くシーンは、『つぐない』に登場したダンケルクの戦場シーンの長回しを思い出した。展開はテレビの歴史番組を見ているような淡々とした正調で、変にドラマを作ろうとはしない。クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』を合わせて、フランスにいた側と海を隔てたイギリスにいた側、それぞれの立場を見るのも興味深い。

オールドマンはおそらく、過去にチャーチルを演じてきた俳優の中で、肉体的には最も似ていない人物だろう。チャーチルはふてぶてしいベビーフェイスを誰もがよく知る偉人。骨格からしてまるで別人になるための大きな助けとなったのが、辻一弘の特殊メイクだ。90年代に渡米し、『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(01)など大作で仕事をし、2度のオスカー・ノミネートも受けながらも映画界を離れ、2012年からは現代美術家として活躍する辻のアート作品は、過去の偉人たちの顔を再現する彫刻。生き写しの頭部を造ることだが、本作のメイクでその点にはこだわっていない。
シルエットはそっくりだ。髪の生え際や皮膚感など、クローズアップになっても作り物めいた違和感はゼロだが、目鼻立ちそのものは極端に変えず、オールドマンが自然に表情を作れる余裕がある。チャーチルという役は、毎回3時間半をかけた精巧ヘアメイクと、それを施された俳優の演技による共同作業によって完成する。オールドマンと辻がそれぞれアカデミー賞主演男優賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞に輝いた結果がすべてを表している。

映像というメディアで、キャラクターを作っての表現が最高峰の技術で実現した。それをとことん堪能する作品だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は2018年3月30日より全国公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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