【週末シネマ】『ラブレス』
息子の失踪は、壊れた夫婦の関係を変えるのか?
しんと冷え切った、愛のない状況。昨年、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『ラブレス』は、『父帰る』『裁かれるのは善人のみ』で知られるロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の最新作。モスクワに暮らす、離婚協議中の夫婦と12歳になる一人息子の物語だ。
・善人の苦難を描き上映反対運動も! ロシアの鬼才を直撃/『裁かれるは善人のみ』アンドレイ・ズビャギンツェフ監督インタビュー
夫のボリスは一流企業に勤め、妻のジェーニャは美容サロンを経営し、経済的な不自由はない。2人にはそれぞれ、情熱的に愛し合う新しいパートナーがいる。一刻も早く無意味な結婚に終止符を打ち、新生活をスタートさせることで頭がいっぱいだ。仲が冷え切り、形ばかりとなった夫婦の唯一の共通点は息子・アレクセイへの無関心だった。
家出か誘拐か、事故か? 警察は反抗期の少年のよくある行動とみなして取り合わない。防犯カメラの映像にも映らず、跡形もなく消えてしまった息子の行方を求めて、夫婦は市民ボランティア団体に協力を依頼する。ロシア全土にこうした団体は実在し、行方不明者の捜索を無償で行なっているという。薄暗く凍てついた光景が広がる中、オレンジのジャケットを着た一団が、アレクセイの自宅付近や通学路など、立ち寄りそうな場所を隈なく捜索するシーンには一種、幻想的な美しさが漂う。恐ろしいまでの大人の身勝手さを畳みかける日常の描写から、一気に神秘的なトーンへと変貌するミハイル・クリチマンの撮影は息をのむ美しさだ。
寓話性を帯びた物語で、どこまでも救いのない現実を象徴するのがボリスとジェーニャだ。テレビやラジオが伝えるウクライナ危機のニュースを聞き流し、スマートフォンを離さない。血を分けた息子の安否を知りたいのは、自分たちの未来のため。無事であってもなくても、戻ってきてもらわなければ困る。利己的なままの両親は、何度も息子の行方の手がかりをつかみかけては裏切られ、時間だけが過ぎていく。アレクセイはどこにいるのか。息子の失踪は、壊れた夫婦の関係を変えるのか。深まる謎の答えとなる結末は冷徹で重い。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ラブレス』は2018年4月7日より全国公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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