キアヌ・リーヴスが50代で演じ続けた『ジョン・ウィック』、“らしさ”が滲むシリーズ4作
『マトリックス』3部作以降、大ヒット作に恵まれなかったキアヌ
【この俳優に注目】2014年の第1作から9年、キアヌ・リーヴスが孤高の殺し屋を演じる『ジョン・ウィック』シリーズの第4作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』がついに日本でも公開された。『マトリックス』シリーズと並んでキアヌの代表作となったシリーズだが、『マトリックス』三部作の後、『ジョン・ウィック』までの約10年、彼は大ヒット作に恵まれずにいた。
もちろん、その間もコンスタントに『コンスタンティン』(2005年)や『スキャナー・ダークリー』(2006年)、日本の「忠臣蔵」をモチーフにした『47RONIN』(2013年)などに出演し、製作も兼ねたドキュメンタリー『サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ』(2012年)や『ファイティング・タイガー』(2013年)では長編映画監督デビューも飾るなど活躍の幅を広げたが、俳優としては苦戦気味だった。
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ジョン・ウィックは70代の設定だった
そんな彼が新たなアクション映画の企画を探していた時に出合ったのがデレク・コルスタッドの脚本だ。コルスタッドの祖父の名前をそのまま使った主人公ジョン・ウィックは数十年前に引退した殺し屋で、年齢設定は70代。クリント・イーストウッドやハリソン・フォードを想定したキャラクターだったが、キアヌ本人のアイディアも取り入れてリライト。一線を退き平穏に暮らしていた元殺し屋が、最愛の妻に先立たれ、愛車を強奪した一味に忘れ形見の愛犬までも殺されて復讐に立ち上がる物語が生まれた。
監督には『マトリックス』シリーズや『コンスタンティン』でキアヌのスタントやアクションコーディネーターを務めたチャド・スタルエスキとデヴィッド・リーチ(監督クレジットはスタルエスキのみ。2作目以降リーチは製作総指揮)が抜擢された。
アクション演技を通して長年の信頼関係を築いた彼らのヴィジョンは1作ごとに進化し、毎回意表を突く表現で観客を驚かせた。宙空を舞うような非現実的なものではなく、肉体がぶつかり合う格闘に別の要素を組み合わせ、リアリティと映画ならではのギミックの絶妙なバランスで独自の魅力を確立した。
第1作では銃も使いながらの格闘に“ガン・フー”という呼称をつけたが、これは映画がヒットするかも未知数だった第1作撮影時に限られた予算と時間で効率的な撮影を目指して考案されたものだという。
予想外の大ヒット、その一因は「サッド・キアヌ」?
前作の大ヒットを受けて第2作『ジョン・ウィック:チャプター2』の製作規模はスケールアップした。前作のラストから5日後、妻との思い出の詰まった自宅をイタリアン・マフィアに爆破され、再び復讐のために行動を起こすジョンは勢い余って組織の掟を破り、その制裁として命を狙われることになる。イタリア・ローマでの新たな強敵たちとの戦いは、ガン・フーに車やナイフも加わった。
愛犬を殺された。家を破壊された。スタジオからは、ジョンが立ち上がる動機が弱すぎるという意見も出たというが、それを納得させてしまうのがキアヌ・リーヴスという俳優の力だ。特に第1作当時は、2010年に公園のベンチで食べかけのサンドイッチを手にポツンと佇む写真が「サッド・キアヌ」と名づけられて拡散していた時期だ。演じる役と本人が微妙に重なったのも、『ジョン・ウィック』が人気を博した一因だろう。
迫力のアクションも魅力、新作では階段落ちも
そして第3作『ジョン・ウィック:パラベラム』では馬に乗ったジョンがニューヨークを疾走しながら追っ手との攻防を繰り広げ……と1作ごとに、人間関係もアクションや物語の設定も派手に広がっていくが、基本は命を狙われるジョン・ウィックが次々と現れる敵を殺し、自らも敵地に乗り込んで死闘を繰り広げるというもの。そのアクションも回を重ねるごとに工夫を凝らし、『~コンセクエンス』ではパリの凱旋門のロータリーで猛スピードの車やバイクが介在する戦闘シーンは大迫力。還暦近くなったキアヌはモンマルトルで階段落ちに挑戦している。
「ジョン・ウィックを殺してくれ」とキアヌ
ジョン・ウィックを演じ続けて50代を過ごしたキアヌ。外見がこの30年来ほとんど変わらない若々しさを誇るが、撮影では毎回心身ともにかなり消耗するようで、新作のたびに「ジョン・ウィックを殺してくれ」と頼んでいたという。安らぎを求めながらも争いから逃れられないジョンと、シリーズ存続を請われ続けるキアヌもまた、重なり合って見える。
コロナ禍を挟んで撮影が2021年になった『~コンセクエンス』はスタルエスキがそんなキアヌに配慮してか、あるいはアクション映画ファンとしての心意気からか、これまで以上にジョン・ウィック以外のキャラクターの活躍が印象的だ。パリ、ベルリン、ニューヨーク、そして大阪と舞台はさらに広がり、ジョンを追いつめる盲目の達人をドニー・イェン、信頼できる旧友シマヅを真田広之が演じる。キアヌと同世代の彼らが若き日から積み重ねてきたアクション演技は圧巻だ。
キアヌらしさが反映されたシリーズに
シリーズを通してキアヌらしさを感じるのは、シリアスなストーリーと苛烈なアクションの中に荒唐無稽さや外しの笑いを差し込むセンスだ。そして、正確さにこだわらず作品の世界に存在する大阪を虚実織り交ぜて面白く作る柔軟さ。これはスタルエスキの盟友リーチが監督した『ブレットトレイン』にも見て取れる、彼らの特徴だ。センスを共有できる得難い相棒と出会い、キアヌ・リーヴスは『ジョン・ウィック』シリーズをライフワークのひとつとして達成したのではないだろうか。
「ドッグスター」来日公演ではバンド活動を楽しむ姿を披露
実際のキアヌ本人は至って平和的な性格で、いい人エピソードに事欠かない。新機軸に挑戦し続ける一匹狼という面はトム・クルーズとも共通するが、映画一筋のトムに対して、キアヌは歳を重ねるにつれて、好きなこと、興味を持ったことに積極的に関わる姿勢が強まっている。
バイクメーカーを立ち上げたり、パートナーのアレクサンドラ・グラントとアート系出版社を経営したり、コミック作家として『BRZRKR(原題)』(共著)を発表し、今年2月に来日してサントリーウイスキー百周年を記念するドキュメンタリー・シリーズ『The Nature and Spirit of Japan』(https://house.suntory.com/100-years-anniversary)に出演し、日本の物作りの現場を探訪した。
さらに映画公開直前の9月中旬にはロックバンド「ドッグスター」のメンバーとして来日公演を行ったばかり。ジョン・ウィックの緻密さとは正反対のかなり緩めな雰囲気だが、ライブ活動を楽しんでいるのははっきり伝わってくる。映画もバンド活動も “好きに勝るものは無し”。キアヌ・リーヴスはこの言葉を身を以て体現している。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は全国公開中。
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