ゴルチエワールド全開! ジャンポール・ゴルチエの才能と人柄に魅了されるドキュメンタリー
『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
【週末シネマ】バストトップがまるでミサイルのように尖った挑発的なシルエット。1990年の「ブロンド・アンビション・ワールド・ツアー」でマドンナが着用した「コーンブラ」に、世間は度肝を抜かれた。その衣装デザインを手掛けたのがジャンポール・ゴルチエである。
・【週末シネマ】サステナブルな服作りを諦めない! 新たな潮流を生んだデザイナーの旅を追う『ファッション・リイマジン』
彼は、1980年代から1990年代にかけてファッション界を席巻。一時代を築いたが2014年にプレタポルテから撤退し、さらに2020年のコレクションを最後にオートクチュールのデザインからも身を引いた。本作は、彼の半生を描いたミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」のメイキングドキュメンタリーである。
このミュージカルの衣装には、なんと過去にコレクションで発表されたオートクチュール作品が200点以上も使用されている。ゴルチエのオートクチュールコレクションを目の当たりにできるファッションショー的側面も持ち合わせた「ファッション・フリーク・ショー」は、日本公演でも大好評のうちに幕を閉じた。
生い立ちやパートナーとの出会いも明かされる
ゴルチエの好みを反映させて、出演ダンサーには個性豊かな人材が選ばれた。体格も肌の色も踊りの専門分野もてんでバラバラ。本格的なストリップを踊れるダンサーもいれば、ダンス未経験のシンガーやモデルもいる。人選における唯一の共通条件は、「背が高いこと」。衣装がオートクチュールコレクションということで、サイズが全てモデル仕様になっているからだ。振付師マリオン・モーティンが全身全霊で振り付け指導を行う場面では、画面越しにダンサーたちの熱量が伝わってきて見ているこちらの気分も高揚してくる。メイキングシーン、ゴルチエ本人のインタビュー、ミュージカルと紐づけた彼の生い立ちのエピソードなどを織り交ぜながら、映画は進行していく。
子どもの頃の疎外感、幼少期の相棒だったクマのぬいぐるみ、それまで判然としなかった自身の性癖をハッキリ「同性愛」と気付かせてくれたかけがえのないパートナーとの出会い……。映画を通じて明かされる、“デザイナー ジャンポール・ゴルチエ”以前のジャンポール少年にまつわるエピソードは非常に興味深い。
エキセントリックでときに猥雑なパフォーマンス
一方で、「果たして公演初日に間に合うのか?」という舞台裏のドタバタぶりにはかなりやきもきさせられる。ダンサーが着用する服や靴は、元々踊るために作られたものではない。当然のごとく、実際に衣装をつけて稽古をしてみると様々な問題が噴出する。刻々と迫りくる公演初日。部外者でありながらこちらまでハラハラドキドキさせられるほど、このドキュメンタリーは臨場感にあふれているのだ。
それと並行して、ミュージカルが完成したらさぞかし素晴らしいショーになるだろうという期待値も高まっていく。エキセントリックな衣装をまとったダンサーたちによる舞台上でのパフォーマンスは、時にカオス、時にユーモラス、そしてある時は最高にいかがわしく猥雑で、アンダーグラウンドのサーカスや見世物小屋の様相を呈している。無論これは誉め言葉だ。メイキングを見ただけでも、ゴルチエワールド全開の珠玉のエンターテイメントに仕上がるであろうことが容易に想像できる。
愛のある言葉選びをする姿が印象的
そして、ゴルチエ本人のチャーミングな人柄もこの作品の見どころのひとつだろう。一流クリエイターにありがちな「完璧主義ゆえ周囲に厳しく当たり散らす」といった神経質な側面は微塵もなく、スタッフに修正や再考を求める際も相手への敬意を忘れず、愛情のある言葉選びをする姿が印象的だ。ゴルチエに対して「ボーダーのシャツを着た短髪のゲイのデザイナー」というイメージしかない人にも、ゴルチエが誰か知らない人にも、彼の才能や独自の世界観、そして人間としての魅力が充分伝わる作品に仕上がっている。(文:羽野ハノン/ライター)
『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』は2023年9月29日より全国公開中。
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
【舞台挨拶あり】齊藤工が企画・プロデュース『大きな家』公開直前舞台挨拶付試写会に15組30名様をご招待!
応募締め切り: 2024.11.22 -
『型破りな教室』一般試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2024.11.29