(…後編「ひたすら愛を求め…およそ事実とは思えないほど数奇な人生を歩んだ歌姫の赤裸々な真実」より続く)
【映画を聴く】『ダリダ あまい囁き』後編
オーディションでスタッフを感涙させた主演女優
歌手としてではなく、ひとりの女性としての生涯を中心に描いているとはいえ、本作は音楽映画としても忠実に作られており、ダリダの一連のヒット曲がほぼクロノロジカルに並べられている。ダリダ役のスヴェヴァ・アルヴィティは今回が初の大役となるイタリア出身のモデルだが、オーディションでダリダの代表曲のひとつ「灰色の途」を歌ってスタッフを感涙させたという。
ダリダ本人はというと、ミス・エジプトに選ばれて1950年代から女優としての活動を開始。1955年にパリに移住して翌56年に歌手デビュー。3枚目のシングル「バンビーノ」は今日までに4,000万枚を売り上げている。初期のシャンソンは多くが哀愁漂う短調だが、70年代後半からは大々的にディスコビートを導入。「べサメ・ムーチョ」のカヴァーなどをヒットさせ、40代半ばにして2度目のピークを迎えている。
本作でのスヴェヴァは、ダリダの情念深くウェットなシャンソン期と華やかでハイテンションなディスコ期をコントラスト豊かに演じている。劇中に使われる楽曲はすべてダリダ本人によるオリジナル音源で、スヴェヴァの歌声を聴くことはできないが、少しでも本人に近づくために彼女はフランス語を学び、歌とダンスを猛特訓した上で撮影に臨んでおり、その結果、弟のブルーノに「君は姉だ」と言わしめるほどダリダ本人になりきることに成功している。現在32歳というスヴェヴァの、今後の女優としてのキャリアに期待が高まる熱演だ。
ダリダが長く住んだパリ・モンマルトルの「ダリダ広場」には、1997年に彼女の没後10年を記念した胸像が据えられている。触ると幸せになれるという都市伝説で有名なこの像の胸は、ひっきりなしに訪れる観光客に触られてすっかり変色してしまっている。生涯“消費”され続けた彼女の実人生ともどこか重なる切ない光景だが、この映画をきっかけに日本でも彼女の人間性や音楽性が正しく捉え直されてほしいところだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
※スヴェヴァ・アルヴィティの歌について、当初の原稿に間違いがあったため、第1段落と第3段落について修正を加えました。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
ダイアン・キートン主演『アーサーズ・ウイスキー』一般試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2025.01.04 -
齊藤工のサイン入りチェキを1名様にプレゼント!/『大きな家』
応募締め切り: 2024.12.27