(…前編「イタさを優しく包み込むジョン・ブライオンの音楽〜」より続く)
【映画を聴く】『レディ・バード』後編
脳内プレイリストを覗き聴きするような趣き
また本作では、ロックやポップスの既発楽曲の使い方も絶妙。先行リリースされているオリジナル・サウンドトラックにはそれらが映画本編のセリフを挟みながらストーリーにほぼ準じる曲順で収録されており、映画を見る前の予習、もしくは見た後の復習に最適だ。
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カトリック系高校が舞台ということを示すように劇中から抜粋された聖歌で始まり、アラニス・モリセット「Hand In My Pocket」、ハイム「Little of Your Love」ほか、ジョン・ケイル、モンキーズ、デイヴ・マシューズ・バンド、ラヴ、アーニー・ディフランコなど、時代もジャンルもバラバラの楽曲が不思議な統一感でまとめられている。レディ・バードが本名で呼ばれて「私はレディ・バードよ」と訂正するセリフなどを挟むことで、曲と曲が有機的につながれているのだ。
レディ・バード、あるいはグレタ・ガーウィグ監督の脳内プレイリストを覗き聴きするような趣きもある。2002年という時代設定を象徴する曲として、映画ではジャスティン・ティンバーレイクの「Cry Me A River」などのアッパーな曲も使われているが、サウンドトラックには未収録。そのためアルバムとしての純度や主観性が上がり、脚本にもその名前が使われているアラニス・モリセットなどがより際立ってくるわけだ。
本作は“子ども”から“大人”へと成長するかけがえのない瞬間を切り取った物語だ。秩序より混沌、連帯より孤立、希望より絶望を多く描いているという意味でファンタジー性は皆無ながら、最後の最後にすべてが浄化されるような感覚は「羽ばたけ、自分」というキャッチコピー通り。その巧みな展開をほどよい距離感で援護するサウンドトラックは、映画が“見る”ものであると同時に“聴く”ものでもあることを改めて教えてくれる。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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