昨秋、ハーヴェイ・ワインスタイを告発する記事が発表されて以来、ハリウッドの映画界を揺るがし続けているセクシャル・ハラスメントの問題。ワインスタインが5月にニューヨーク警察に出頭し、女性2人に対する性的犯罪容疑で逮捕・訴追され、100万ドルの保釈金で釈放され、7月に裁判が始まる予定だ。
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新たなフェーズを迎え、今後の展開が注目されている中、日本では今週奇しくも、#MeToo運動の高まりとともに過去に起こしたセクハラが掘り起こされてキャリア存続の危機に瀕している名匠2人の新作が公開される。その監督とは、『女と男の観覧車』のウディ・アレンと『告白小説、その結末』のロマン・ポランスキーだ。
ウディ・アレンは1992年、パートナーだったミア・ファローの養女ディランが7歳の時に性的虐待をしたとして刑事告訴された。当時、アレンはファローと破局し、ファローの養女だったスン・イーと恋愛関係にあり、2人は子どもの親権争いを繰り広げていた。ファローがその後訴えを取り下げたため、アレンは一度も起訴されていないが、成人したディランが2014年、自ら告発に踏み切った。折しも監督作『ブルージャスミン』が賞レースを賑わせていた時期に、ディランは公開書簡を発表、アカデミー会員に『ブルージャスミン』に投票しないよう訴えた。
アレンは当初から一貫して虐待行為を否定しているが、ワインスタイン事件が明るみに出たことから、ディランは昨年12月「ロサンゼルス・タイムズ」紙に性的虐待についての書簡を発表、今年1月にはTV番組に出演し、自らの言葉でアレンから受けた性的虐待について赤裸々に語った。アレンは今回も書面でディランの言い分を完全否定、ファローが幼いディランに「虐待された」と思い込ませたという主張を繰り返した。
昨年10月、「ニューヨーカー」誌に、グウィネス・パルトロウらの実名告白付きのワインスタイン告発記事を寄稿し、2018年ピューリッツァー賞公益部門賞を受賞したジャーナリスト、ローナン・ファローは、アレンとファローの間に生まれた息子(ファローは現在では、父親はアレンではなくフランク・シナトラかもしれないと話している)であり、ローナンは姉と母の主張をサポートし続けている。彼がセクハラ告発に打ち込む原点は、家族の影響が大きいことは間違いない。一方で、ファローの養子で2人の兄にあたるモーゼスは唯1人、アレン側の主張を支持し、自分はファローから虐待されたと告発。泥沼の様相を呈している。
だが、大きなムーブメントとなったセクハラ告発と#MeToo運動を受けて、これまでアレン作品に出演してきたコリン・ファースやエレン・ペイジ、レベッカ・ホールが、出演したことを後悔していると相次いで発言。『女と男の観覧車』やポランスキーの『おとなのけんか』に主演したケイト・ウィンスレットは実名こそ出さなかったが、セクハラ疑惑にある「実力者」と仕事をしたことを「後悔している」と語り、アレンは窮地に追い込まれている。
ロマン・ポランスキーは1977年、ロサンゼルスで13歳のモデルに性的虐待をした疑いで逮捕され、有罪判決を受けた後、保釈中に出国。アメリカには二度と戻らず、ヨーロッパで活動を続け、『戦場のピアニスト』(02)はアカデミー賞7部門で候補となり、監督賞、脚色賞、主演男優賞(エイドリアン・ブロディ)を受賞した。
1977年の事件について、ポランスキー自身は冤罪を訴えている。被害者の女性は虐待された事実の主張は変えていないが、長年にわたって好奇の目にさらされる苦痛から、裁判の取り下げを訴えているが、昨年8月にも訴えは却下されている。ポランスキーは昨年1月、フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞の審査委員長に任命されていたが、女性権利団体から抗議の声が上がり、反対署名が6万人以上集まったことから、自ら辞退すると発表した。
今年公開予定だったウディ・アレンの新作『A Rainy in New York(原題)』はジュード・ロウやエル・ファニング、『君の名前で僕を呼んで』でブレイクしたティモシー・シャラメなど豪華なキャストで注目されていたが、製作会社のAmazon Studioは劇場公開の中止を決定。配信などもされないままお蔵入りしてしまうようだ。ポランスキーも今後の予定は白紙状態。独自のスタイルで数々の名作を撮り続けてきた鬼才2人のキャリアは、過去に犯した大きな過ちによって終止符が打たれてしまうのだろうか。
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