豪華キャストが振り切れ怪演! 『パンク侍、斬られて候』は現代に狂い咲く歌舞伎

#パンク侍、斬られて候#週末シネマ

『パンク侍、斬られて候』
(C)エイベックス通信放送
『パンク侍、斬られて候』
(C)エイベックス通信放送

【週末シネマ】『パンク侍、斬られて候』
足元を見下す態度や腹黒さは永田町や霞ヶ関を見るよう!

町田康の同名原作小説を宮藤官九郎が脚色、『蜜のあわれ』の石井岳龍監督が映画化した『パンク侍、斬られて候』は、タイトルが表すとおりの、型破りで奇想天外の時代劇。綾野剛と北川景子を中心に、東出昌大、染谷将太に浅野忠信と豊川悦司をはじめ、過去の石井作品の主演俳優たちも揃い、怪演を披露する。

東出昌大インタビュー「台本だけなのに抱腹絶倒!」

舞台は江戸時代。とある藩に流れてきた浪人・掛十之進(綾野)が「腹ふり党」という怪しげな宗教の台頭を告げ、藩に「超人的剣客」である自分を売り込む。これはいわば自作自演なのだが、筆頭家老・内藤(豊川)はこの“一大事” を次席家老・大浦(國村隼)の失脚に利用しようと、十之進に「腹ふり党」騒動のさらなる自演を命じる。頭が固く、正論しか受けつけない藩主(東出)や「腹ふり党」元幹部の茶山(浅野)とその世話係の美女・ろん(北川)、ゆとり世代風の打たれ弱い若侍・幕暮(染谷)、人語を巧みに操る猿の大臼延珍(永瀬正敏)など、濃すぎるキャラが次から次へと登場し、ハッタリをかまし合い、それぞれの内にあるパンク魂の炸裂が想像を超えたカオスを引き起こす。

宮藤の書くセリフは冒頭から今どきのワードを連発させる確信犯。かつて『爆裂都市 BURST CITY』(82)で監督・石井聰亙と俳優・町田町蔵として組んだ同世代2人の共有する精神に宮藤が共鳴している。正統派時代劇としても通じるルックにカラフルでポップな外しを加える林田裕至(『シン・ゴジラ』)の美術、澤田石和寛(『新宿スワン』シリーズ、『蜜のあわれ』)のキャラクターデザイン・衣裳デザイン、大団円に鳴り響くセックス・ピストルズの楽曲まで、「映画は総合芸術」という言葉を思い出させる。

迷いなくクレイジーに振り切った演技を見せる豪華キャストが素晴らしい。スターにしか出せない華やかさは、描く世界が荒唐無稽になればなるほど映える。そして破茶滅茶と同時に妙に現実的で生々しい場面があるのも面白い。豊川演じる筆頭家老の見せる腹黒さも相手の足元を見て見下す態度も、まるで現代の永田町や霞ヶ関を見ているようだ。デマが発端のハッタリ合戦は、やがて人間と人間と猿の戦いに発展。東出の演じる殿様の「わからん!」という叫びはもっともだが、そんな人物までも問答無用に絡め取り、映画は爆走する。本作は当初、dTVの配信コンテンツとして企画されたというが、これだけのスケールを小さな画面に収めるに留めず、大スクリーンで見せようと切り替えた英断に脱帽だ。画面も音も大きければ大きいほど、作品本来の持つパワーが増幅され、熱気で観客を巻き込む。

江戸時代に作られた歌舞伎の狂言は、たとえそれがつい最近の事件をもとにした内容でも、時代設定は鎌倉時代など過去に変えられた。「仮名手本忠臣蔵」は18世紀初頭の元禄時代に起きた赤穂事件の脚色だが、設定は14世紀の南北朝時代になっている。その趣向と傾く=パンクの精神がそのまま受け継がれた本作は、現代に狂い咲く映像の歌舞伎だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『パンク侍、斬られて候』は6月30日より全国公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。