【映画を聴く】『タリーと私の秘密の時間』前編
「サプライズ」と「ミステリアス」を見落とすな!
仕事も家事も育児も、常に完璧を目指す主人公のマーロ。40代にして3人目の出産を経験したところで心と身体が悲鳴を上げ、夜限定のベビーシッターのタリーを雇うことに。その文句ない仕事ぶりのいっぽうで、タリーは多くの謎に包まれていた……。
・ワンオペ育児で疲労困憊ママに共感相次ぐ! 温かな眼差し貫く名匠に聞く/『タリーと私の秘密の時間』監督インタビュー
「かつて夢見た“未来”とは違う“今”にため息をつく大人たちに、目の覚めるサプライズを贈る、ミステリアスな人生のリフレッシュ・ムービー」──『タリーと私の秘密の時間』のパンフレットには、そんなコピーが添えられている。ここで見落としてはいけないのが「サプライズ」と「ミステリアス」という言葉だ。
確かに本作は、子育て世代のお母さんたちへのエールや、頼りないお父さんたちへの叱咤激励といった要素を多分に含んでいる。しかしその描写は、よくある感動系リフレッシュ・ムービーのように綺麗で最大公約数的なものではない。
ようやく赤ちゃんが寝ついたと思ったら、いじっていたスマホをポロリと赤ちゃんの上に落としてしまい、また号泣させてしまったり。赤ちゃんを抱いてリビングをウロウロしていたら、床に落ちていたレゴブロックを踏んでしまい、地味にイタい思いを味わったり。そんなことの連続で熟睡できず、搾乳器を両胸にぶら下げながらウトウトしてしまったり。
そんな徹底したリアリズムがどの場面にも通底しているからこそ効いてくる「サプライズ」と「ミステリアス」である。どう書いてもネタバレになってしまうが、両者によって浮かび上がる「並行世界」の伏線として、いくつかの劇中歌がとても大きな役割を果たしている(後編へ続く…)。
・後編「深読みすればきりがない! 最高に身体を張ったシャーリーズ・セロンの演技と共に味わいたい雄弁な音楽演出」に続く…
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