(前編「始めから終わりまで落涙の嵐! 期待の斜め上をいく出来映え〜」より続く)
【映画を聴く】『SUNNY 強い気持ち・強い愛』後編
90年代の空気感やカルチャーを伸び伸びと描写
小室哲哉が90年代に量産したヒット曲の数々が中心に据えられている中、楽曲としてとりわけ異彩を放っているのが、タイトルにも使用されている小沢健二「強い気持ち・強い愛」だ。
『モテキ』で小沢健二とスチャダラパーの「今夜はブギー・バック」をフィーチャーした大根監督なので、選曲されたこと自体はそれほど不思議ではないが(現に、この曲を使うことは大根監督の強いこだわりだったという)、オザケン・ファンからすると、気になるのはその使われ方だろう。雑誌「egg」に出てくるような当時のコギャルたちがカラオケで歌うのは、TKファミリーやドリカムの曲であって、“渋谷系の王子様”のオザケンではないのでは? しかしそのあたりの動機づけはさすが大根監督。きわめて必然的な形で、この曲に最高の見せ場を与えている。
オリジナル版『サニー 永遠の仲間たち』で言えばボニーM「サニー」と同じ役割で使われるこの曲。小沢健二にとって数少ない非・自作曲のひとつだが(作詞は本人、作曲は筒美京平が担当)、アルバム『LIFE』以降のソウル〜ディスコ歌謡路線の集大成的な一曲であり、その多幸感あふれるサウンドが物語を大団円へと導いていく。98年以降、長く続いた隠遁状態から突如復活した、ここ数年の小沢健二の活動を追い続けてきたファンにとってはたまらないはずだ。
そしてもうひとつの重要曲である安室奈美恵「SWEET 19 BLUES」は、奇しくも本人の引退とタイミングが重なったも相まって、「強い気持ち・強い愛」とは好対照なフィーリングを作品にもたらしている。19歳になる少し前にこの曲を発表した安室奈美恵は、劇中のSUNNYの面々とほぼ同世代。40歳を節目に人生の次なるステップへ進もうとするその姿が、彼女たちとオーバーラップする。この曲の作者である小室哲哉にとっても、本作のサウンドトラックは引退前の最後の仕事となった。偶然とはいえ、平成最後の年にこの2人が引退することがこのような形で刻まれることは、とても感慨深い。
時代性と確かな普遍性を兼ね備えた『SUNNY 強い気持ち・強い愛』。ノスタルジーや仲間の死といった常套的な感動ファクターを、ここまでフレッシュに見せてくれる作品はそうないと思う。「あの頃はよかった」としみじみさせるだけではなく、将来への圧倒的な肯定感で見る者の背中を押してくれるのだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は8月31日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。
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