人の本性は隠している部分にこそ現れる? リアルすぎる失踪劇が投げかける問い

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『search/サーチ』
『search/サーチ』

【週末シネマ】『search/サーチ』

法外にリッチでもなく、勤勉で平穏な生活を営むアジア系アメリカ人男性が忽然と姿を消した娘の行方を探すサスペンス・スリラー『search/サーチ』。数年前に妻が病死し、16歳の娘と2人暮らしのシングルファーザー、デヴィッドが主人公だ。

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高校に通う娘マーゴットは友人宅に泊りがけの試験勉強に出かけたきり、翌朝から音信不通になる。メッセージを送っても返信はなく、電話は繋がらない。娘の友人や知人、親族に問い合わせても何の手がかりもつかめず、家出なのか、事件や事故に巻き込まれたのさえわからないまま時間は過ぎていく。警察に捜索願を出し、担当になった女性捜査官と協力しながら、デヴィッドは家に残されたマーゴットのコンピュータにログインし、娘のSNSアカウントにアクセスする。そこにはデヴィッドがこれまで知る由もなかった娘のもう1つの姿が浮かび上がってくる。

ショートメッセージやフェイスタイム、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックをはじめとするとSNS。それを映し出すスマートフォンとコンピュータのディスプレイ画面上のみで物語は進む。撮影は全編ウェブカメラで行われた。コンピュータにログインし、電話をかけながら、ウェブサイトで情報を収集し、SNSのアカウントもチェック……アプリを開いては閉じる、を繰り返す画面上の目まぐるしさは、実際に自分が作業している時にはさほど意識しないだけに、デヴィッド以下登場人物たちの行動を一歩引いた位置から見ると、程度の差こそあれ、今や誰もがネット依存気味だと感じずにはいられない。

本作で劇場用映画デビューを飾った監督のアニーシュ・チャガンティは1991年生まれの27歳。Google Glassだけで撮影した2分半の短編映画“Seeds”で注目され、今年1月開催のサンダンス映画祭で観客賞を受賞した。

アメリカでの公開時期が『クレイジー・リッチ!』と重なり、話題を持っていかれた感はなきにしもあらずが、規格外ではないアジア系アメリカ人を主人公に、当たり前の日常がある日突然覆される恐怖、それこそ10代の子を持つ親ならば国を問わないリアルな共感を呼び起こす。絡み合いすぎた網を解きほぐしていく過程で、SNSとは見えているようで見えていない。と思わせる一方、こんなに見えているのか、とも思い知る。隠している部分にこそ、その人の本性があるのだ。

姿を消した娘が無事に帰還することを信じて疑わないデヴィッドを演じるジョン・チョーは韓国出身のロサンゼルス育ち。『アメリカン・パイ』や、インド系俳優のカル・ペン(一時俳優を休業し、オバマ政権下でホワイトハウス広報部に勤務)とコンビを組んだコメディの『ハロルド&クマー』シリーズで人気を博し、2009年から始まった『スター・トレック』シリーズではヒカル・スールーを演じている。チョーと、捜査官のヴィックを演じるデブラ・メッシング(TVシリーズ『ふたりは友達? ウィル&グレイス』)のほかは有名俳優は出演していないが、それゆえの臨場感、コンピュータのディスプレイという特殊な画面上という限られたスペースの閉塞感をうまく生かしたデジタル・ミステリーだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『search/サーチ』は10月26日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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