(…前編「ベスト盤を買うなんて邪道!と思う人にこそ見てもらいたい」より続く
【映画を聴く】『モダンライフ・イズ・ラビッシュ〜』後編
物語はiPodの登場からiPhoneが爆発的に普及するまで、つまり音楽がデータとして“消費”される時代の始まりに設定されている。その変化を嫌い、時代と逆行してCDやアナログ盤といったフィジカル・メディアにこだわり続けるリアム。自身のバンドが立ち行かず反社会的な姿勢を強めていく彼と、2人の生活のために自身の夢を捨て、iPodを買い、現代社会の進歩に適応しようとするナタリーの気持ちの隔たりは、日に日に埋め難いものとなっていく。
別れの日、リアムはナタリーにRadioheadの『Kid A』というCDを「俺には実験的すぎるから」とナタリーに手渡すのだが、それはリアムの置かれた立場や考え方を端的に表している。実際、彼のバンド=Headcleanerが劇中で聴かせる音楽は、どれも不器用と言っていいほどオールドファッションな3ピース・ロック。「歌詞やメロディに光るものはあるけれど、世界を変えてしまうような革新性はない」という扱われ方をしている。
リアムの思う通り“現代社会はクズ”なのか? 彼はそれに適応することなく、我が道を進み続けるのか? そして邦題にある“泣き虫ギタリスト”の意味とは? ダニエル・ギル監督が「99%の人々が共感できる内容だと思った」というフィリップ・ガウソーンによる脚本には終盤で大きなツイストが加わる。その展開を清々しく思うか、苦々しく思うかはあなた次第だが、あらゆる解釈に耐え得るその懐の深さは、タイトルにも使われたblurの音楽に通じるものだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『モダンライフ・イズ・ラビッシュ〜ロンドンの泣き虫ギタリスト〜』は11月9日より公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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