カメ止め、評論家評価は低くても日本アカデミー賞8部門受賞の理由

#カメラを止めるな#興行トレンド

『カメラを止めるな!』
(C)ENBUゼミナール
『カメラを止めるな!』
(C)ENBUゼミナール

1月15日、日本アカデミー賞の優秀賞(米アカデミー賞の候補作に該当)が発表された。最多13部門で優秀賞を受賞したのは『万引き家族』だが、注目は昨年の話題作『カメラを止めるな』。5本ある優秀作品賞の1本に選ばれた他、優秀監督賞、優秀主演男優賞など8部門を受賞した。3月1日の授賞式で最優秀賞を争う。

一般大衆が熱狂した『カメ止め』をアカデミー会員は高く評価した一方、スポーツ紙の映画担当記者や映画評論家などが選ぶ映画賞はあまり評価が高くなかった。

SNS世代が支持し異例の躍進!『カメラを止めるな!』

報知映画賞=特別賞。作品賞は『孤狼の血』、監督賞は『日日是好日』大森立嗣
日刊スポーツ映画大賞=石原裕次郎賞。作品賞は『万引き家族』、監督賞は『孤狼の血』石和彌
(毎日映画コンクール、ブルーリボン賞、キネマ旬報ベスト・テンは発表前)

日刊スポーツ映画大賞の石原裕次郎賞は、その年に最もファンの支持を得て、スケールの大きな作品に贈られる。報知映画賞の特別賞ともども「作品の評価よりも話題性」で『カメ止め』が受賞したといえそう。キネマ旬報ベスト・テンも映画評論家や日本映画記者クラブ員など100人以上が選ぶので、スポーツ紙の映画賞同様、『カメ止め』の評価は低いものと推測される(発表は2月4日)。

日本アカデミー賞で『カメ止め』の評価が高いのは、アカデミー会員の構成と関係があると思われる。会員は3960人で、最も多いのが賛助法人の社員で1610人。賛助法人とは映画業界に携わる会社のことで、テレビ局、広告代理店、興行会社、制作会社など228社。いわば普通の社会人に映画の好みが近い。それがアカデミー賞に反映されるのではないか。

「アカデミー賞の優秀作品賞は東宝、松竹、東映の配給作品ばかり。出来レースではないか」との批判がある(今年の優秀作品賞は、大手3社以外で『万引き家族』ギャガ配給、『カメ止め』アスミックエース・ENBUゼミナール共同配給の2本ある)。

アカデミー会員になっている東宝、松竹、東映の大手3社の社員は855人。占める割合は約22%で、出来レースを生み出すほど人数が多くない。むしろ、最も多い賛助法人の社員が全国拡大公開される大手3社を見る傾向が強く、それがアカデミー賞の結果に反映されているといえそうだ。『万引き家族』『カメ止め』も全国拡大公開された大ヒット作である。(文:相良智弘/フリーライター)

相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。