どこまでも美しく、じわじわと恐怖を植え付ける。映画音楽家となったトム・ヨークの今後に期待!

#ホラー#映画を聴く

『サスペリア』
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…前編「エンタメ寄りの1977年版と文芸寄りの2018年版〜」より続く

【映画を聴く】『サスペリア』後編
トム・ヨークの参加は、ある種の必然性すら感じさせる

ルカ・グァダニーノ監督による2018年版『サスペリア』の音楽を担当したのは、ご存知レディオヘッドのトム・ヨーク。グァダニーノ監督といえば、スフィアン・スティーヴンスを起用した『君の名前で僕を呼んで』のサウンドトラックが単体の音楽作品としても愛される素晴らしい仕上がりだったことが記憶に新しいが、本作では当初オリジナル音楽の制作には消極的だったという。最終的にオリジナル音楽が必要だと判断したグァダニーノ監督が、なぜトム・ヨークに白羽の矢を立てたのかは定かではないものの、この人選が今回のリメイクの方向性をより強固なものにしたことは確かである。

先に触れたように、ダリオ・アルジェント監督による1977年版『サスペリア』は動的なホラーを志向しており、音楽もゴブリンによる雄弁にして技巧的な演奏をフィーチャーしたもので揃えられていた。これに対してグァダニーノ監督による今回の『サスペリア』は、どこまでも美しく、見る者にじわじわと恐怖を植え付けていく静的なホラーである。トム・ヨークは映像にピアノで曲を付けていくという、もっともシンプルな手法で制作に臨んだそうだが、“行間”を十分に担保したその楽曲群は、時にデフォルメ感すら漂うホラー映画然とした音づくりもチラつかせつつ、美しい映像に潜む狂気を丹念に汲み上げていく。

1977年版がクラシック・バレエなのに対して、2018年版はコンテンポラリー・ダンス。その違いを象徴するように、音楽はビートに縛られることなく、抽象的に揺らぎ続ける。時折挟み込まれるトム・ヨークの神経質な歌声もまた、見る者の恐怖感や不安感を掻きむしる。カンやクラスター、ノイ!といったクラウトロックからの影響を隠さないレディオヘッドの中心人物だけに、1977年のベルリンを舞台とした本作へのトム・ヨークの参加は、ある種の必然性すら感じさせるものだ。

本作での成果がどういう形でレディオヘッドにフィードバックされるのか、個人としてこれからも映画音楽に携わっていくのか。新たに「映画音楽家」の肩書きが加わったトム・ヨークの活動を、今後も楽しみに見守りたい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

『サスペリア』は1月25日より公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。

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