勧善懲悪の時代劇を見て日々の憂さを晴らした“昭和の時代”を彷彿!

#七つの会議#週末シネマ

『七つの会議』
(C)2019映画「七つの会議」製作委員会
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『七つの会議』
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【週末シネマ】『七つの会議』
これでもか!と名優たちが揃った話題作、
間合いや呼吸は完全に時代劇

「陸王」「下町ロケット」など、ドラマでもおなじみの半沢直樹シリーズの作者・池井戸潤のクライムノベル「七つの会議」の映画化。とある中堅メーカーで起きたパワハラ騒動と不可解な処分に端を発し、会社が抱えてきた秘密と闇が明かされていく。

野村萬斎「撮影は楽しくもスリリングな毎日だった」主演映画に手応え

主演に、狂言師としてはもちろん映画『陰陽師』シリーズやドラマでも活躍する野村萬斎を迎え、『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』などTBSの池井戸作品ドラマ化を手がけてきた福澤克雄が監督を務め、香川照之や及川光博、片岡愛之助などこれまでのドラマ化作で活躍してきたキャストが揃う。

主人公は営業一課の万年係長で、会議で居眠りばかりしている八角民夫(野村萬斎)。かつては優秀な営業マンだった彼のあまりのぐうたらぶりに業を煮やした上司の課長(片岡愛之助)が一喝するが、逆にパワハラで訴えられて異動になる。急遽、課長に抜擢された原島(及川光博)と部下で寿退社を控えた浜本(朝倉あき)が、不可解な人事とそこに隠された秘密を追いながら、狂言回しの役割を担っている。

宣伝でキャストも強調している通り、舞台こそ現代の企業だが、そこはまるで侍社会。敵対する者同士、いちいち決め台詞で見得までする芝居の間合いや呼吸は完全に時代劇だ。全てのリアリズムを敵に回すような演出が、会社という組織の容赦なさの真に迫る効果になっているのが面白い。昭和の時代、人々は勧善懲悪の時代劇を見て日々の憂さを晴らしていたが、『七つの会議』は平成最後の早春に彼らが見るネオ時代劇という趣向だろう。

現実社会で不正や偽装、隠蔽のニュースが毎日流れてくる今、この上なくタイムリーなテーマが、優秀な社員とは何なのか? 会社にとって、個人にとっての正義とは、良心とは?と問いかけてくる。

最初は、あまりに傍若無人な八角の行動に面食らう。八角と同期で今や結果第一主義の鬼のような管理職・北川(香川照之)をはじめ、営業部、経理部の面々など、登場人物が次々と主観で語り、状況が少しずつ説明されていく。八角が真意を語り始める頃にようやく全貌の輪郭が見えてくるが、パズルのピースを1つ1つ合わせていくようなサスペンスで観客を引っ張る。

狂言師や歌舞伎俳優、さらに鹿賀丈史や橋爪功、そして北大路欣也といった名優がこれでもかとキャスト揃う本作は、映像もさることながら台詞で聞かせてわからせる映画だ。個人的には、全て台詞で説明するのは映画として負けだと思っている。だが、「それをされると興醒め」と思う数々のことが、今回に限っては逆手にとったように決まる。そこに意味を持たせるのが野村萬斎という配役だ。ぐうたらしながら飄々と正義を貫く。サラリーマンが憧れる、究極のヒーロー像かもしれない。(文:冨永由紀/映画ライター)

『七つの会議』は2月1日より全国公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。